第32軍留守名簿に「慰安婦」

-沖縄タイムス 2021年1月7日 旧日本軍の司令部に「慰安婦」 沖縄大学の研究員、裏付ける資料を新たに発見

第32軍司令部の留守名簿に軍「慰安婦」と見られる女性が「特殊軍属」として記載されていたことが明らかになった、という今年はじめのニュースです。ちょっと気になるのが記事に引用されている発見者のコメントです。

 沖本さんは「この名簿から『慰安婦』を軍隊が紛れもなく管理していたことが分かる証拠になる。名簿の無い朝鮮人や沖縄関係の慰安婦もいる。32軍司令部の公開と合わせて研究が進んでくれたら」と話した。

 一般の読者に史料の意味を伝えるのが必ずしも容易でないのはわかりますが、これではあたかも「軍が「慰安婦」を管理していたか否か」がいまだに争点となっているかのように受け取られかねません。そのような地点はもう四半世紀も前に通り過ぎたはずです。

アインザッツグルッペンの一員だった父

AFPBB NEWS にこのような記事が掲載されていました。ニュルンベルク裁判の開廷から75年目となる日にあわせて掲載されたようです。

-2020年11月20日 「ナチスの「虐殺部隊」に所属…父の秘密と向き合うドイツ人女性

【11月20日 AFP】ドイツ人のバーバラ・ブリックス(Barbara Brix)さん(79)は、医師で歴史と文学を愛する父親を尊敬していた──生前、ナチス・ドイツ(Nazi)の「虐殺部隊」の一員だったと知るまでは。その事実を知ったのは、父親が死去してからだいぶたった後だった。

 

オーストラリア軍、報告書公表

アフガニスタンでの戦争犯罪疑惑に関する報告書をオーストラリア軍が公表したとのこと。

www.bbc.com

上の記事で見る限り、かなり明確に戦争犯罪として認定しているようです。

オーストラリアが自軍将兵の戦争犯罪を捜査か?

-朝日新聞 2020年11月13日 「軍が残虐行為か、豪政府捜査へ アフガン派遣の兵士ら」(archive)

オーストラリア政府が、アフガニスタンに派遣された豪軍兵士らによる残虐行為がなかったかどうかを調べる特別捜査官事務所を設ける。非武装の住民や子供らの殺害に関わった疑いが相次いで発覚し、戦争犯罪として起訴するかどうかを判断するためだ。モリソン首相が12日、発表した。

調査結果がどうなるかは現時点では未知数ですが、軍の反発を抑えてきちんとした調査が行えるかどうかはシビリアンコントロールがどれだけ徹底しているかを測る物差しとなり、軍がこの調査にどれだけ協力するのかは武力組織が民主主義や法の支配といった原理にどれだけ忠実に服するかを測る物差しにもなります。今後も注目していきたいと思います。

 

『歴史認識問題研究』別冊号

西岡力高橋史朗が発足した歴史認識問題研究会は『歴史認識問題研究』というどこか既視感のある論集を刊行しています。現在までに全7号と中国人「慰安婦」を特集した別冊号(2018年10月)が出ています。

今回とりあげるのはこの別冊号です。数人がかりでひたすら蘇智良の「慰安婦」研究が穴だらけであると主張するものですが、この別冊号に収録されている右派論壇人たちの主張の粗雑さもたいがいです。

一番驚いたのは島田洋一。これじゃまるでレジュメです。おまけに冒頭部分の書誌情報から著者名が抜けているという……。

<総論>中国人慰安婦問題の全体像、明らかになった4つの真実」を書いているのは西岡力。その「4つの真実」の一つ目が「1 中国人慰安婦問題の研究と運動は1992年朝日の慰安婦強制連行プロパガンダを契機に始まった」で、「またか……」とうんざりさせられます。しかし「蘇は自分が慰安婦問題を知ることになったきっかけについて以下のように書いている」として引用されている箇所には一度も『朝日新聞』という単語は出てこないのです。

四つめ「中国人慰安婦20万人説はでたらめな計算の結果」にもインチキがあります。蘇智良が採用した兵員と「慰安婦」の比率(兵29人あたり1人)について「たしかに吉見 は 1992 年に出した『従軍慰安婦資料集』(大月書店)の解説で〈当時、「ニクイチ」という 言葉がかなり流通していたようである〉(83 頁)と書いている。しかしその根拠をまった く示していない」としています。しかしこの資料集が出るより早く、『正論』の1992年6月号において秦郁彦が「兵隊二九人に女一人を意味する「ニクイチ」という「適正比率」が一部に流通していたこと」(文春文庫の『昭和史の謎を追う 下』では487ページ)と書いていることは無視しています。

たしかに蘇智良の推定は関係する各パラメーターについて「慰安婦」の総数が多く出る方向にかなり引っ張った数字を採用しており、その結果の蓋然性は極めて低いと私も思います。しかしそれを言うなら秦郁彦も総数を少なくする方に自説を修正した際、理由をロクに示していません。

四つのうち多少なりとも事実を含んでいるのが「3 名乗り出た中国人元慰安婦の大部分は、「慰安婦」ではなく「戦時性暴力被害証言者」」です。たしかに万愛花さんら被害を名乗り出た中国人被害者は「慰安婦」と呼ばれることを拒否し、彼女たちを支援してきた日本の運動体(山西省明らかにする会)も「慰安婦」という用語を用いていません。しかし彼女たちへの加害の背景には軍「慰安所制度」や日本軍の治安戦思想があると考えられているために、「慰安所」制度と同じく日本政府・日本軍の責任が問われているわけです。

ちなみに中国人被害者に関する研究については続く勝岡寛次日本における中国人慰安婦の研究と運動」が比較的詳しく扱っています。機会があればこれは別途とりあげてみたいと思います。

2020年の「9月18日」

今年も「柳条湖事件」と「満州事変」でニュース検索してみました。結果は案の定です。いちいち記事にリンクを貼る気もしないのでスクリーンショットで済ませます(「柳条湖事件」で検索した結果の一部)。

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柳条湖事件」のニュース検索結果の一部

2日前の9月16日に「90年目の満洲事変 勃発前に陸軍大将の「非戦」講演があった」と題する、陸軍大将渡辺錠太郎についての記事を出して一瞬「おやっ?」と思わせたのがNEWSポストセブンです。しかし読み始めるとこれは小学館から刊行された渡辺の評伝のパブ記事に近いものだということがわかります。

ひどかったのは東洋経済ONLINE。皮肉なのはこの記事の1ページめに表示されていた日本IBMの広告のキャッチコピーが「日本のビジネスを、もっと強くしなやかに」だったことです。ビジネスの現場にいる日本人に「9.18」をことさら「反日」だと認識させようとする記事を掲載することが、日本のビジネスにとってプラスになるとは全く思えないのですが。

これとは別の意味で酷かったのが18日当日の朝日の社説です。9月18日に満州事変をスルーしてまで載せるのがこれか、と呆れ果てました。