『日中戦争と汪兆銘』

汪兆銘政権の成立(および重慶を脱出した汪兆銘に対する日本の手のひら返し)については、日中戦争ないしアジア・太平洋戦争についての通史には必ず出てくるので通り一遍のことは知っているのだが、ほんとに通り一遍でしかないので昨年買っておいたものを、年末から年始にかけて読了。周仏海はじめ汪の側近たちの役割や、汪兆銘政権の内実がコンパクトにまとめられている(重慶政府との間での、漫画家の動員合戦といったトピックにもふれているのが面白い)。

後知恵で言えば「屈辱的」としか言いようのない条件を呑んだ汪兆銘たちだが、日本だってその7、80年前まではそれぞれ列強をバックにもった複数の勢力に別れて対立していたわけで、場合によっては汪兆銘のような決断をした日本人が現われたかもしれない…と考えれば他人事ではない。この点、後世の目を意識した節があるとされる周仏海の日記はその粉飾ないし脚色(の可能性)ゆえにいっそう興味深い。

古本屋で昨年買ったもののなかに、影佐機関(梅機関)の一員だった岡田酉次主計少将(敗戦時)の『日中戦争裏方記』(東洋経済新報社)がある。まさに中華民国維新政府から汪兆銘政権までに関与した日本側の関係者の回想記。松本重治が序文を書いている。『日中戦争汪兆銘』の記憶が新しいうちに読んでみようかな(ただ、アレルギーが心配になる埃のつもり方なのでついつい後回しに…)

七人の『死刑囚』」撮影完了報告大会

ホドロフスキさんから教えていただきました。
「七人の『死刑囚』」撮影完了報告大会のシンポの模様です。
http://www.nicovideo.jp/search/「七人の『死刑囚』」撮影完了報告大会
内容についてはまた改めて。一つだけ、あまりこの話題では登場することがない西部邁がなにをしゃべるかに関心をもっていたんですが、南京事件それ自体にはたいして興味がないのがみえみえの話しっぷりでした。まあ山本七平渡部昇一、鈴木明のビリーバーであることをカウムアウトはしていましたが。Youtubeにも(たぶん)同じものがアップロードされてます。

コメント欄とブクマコメント

mujinさんのこのエントリですが…。
http://d.hatena.ne.jp/mujin/20080102/p1
エントリのコメント欄にはさほどコメントがついていないのに、ブクマでは「俺は中道」な人が増殖中。ブクマコメントの距離感と「俺は中道」的スタンスとは親和的なんだろうか。

「命令」とはなにか

池田信夫氏がまたしても沖縄戦「集団自決」問題について朝日新聞陰謀論を炸裂させているんだけど(ここのコメント欄)、もう見事なまでに、「慰安婦」問題についての「強制」の捉え方と「集団自決」問題における「命令」の捉え方が同じ。まあ当たり前だけど。だれも「大本営が“銃剣突きつけて”慰安婦を連行するよう命じた/集団自決の大陸指をだした」とか「軍の参謀部が“銃剣突きつけて”慰安婦を連行せよ/集団自決せよという命令を起案し、司令官が判子を押した」なんてことははじめから主張してないのに。「慰安婦になった」人々、「集団自決した」人々にとってどれだけ実質的に自由な選択の余地があったのか、という観点からは決して問題を考えまいとする堅い決意がうかがえる。

できるもんならやってみてくれ!

http://fromdusktildawn.g.hatena.ne.jp/fromdusktildawn/20080103/1199312777

ポイントは、たとえ南京事件がなかったとしても、

南京事件はあった」ことにすること自体は、

とても簡単だということ。

そもそも、レイプも虐殺も皆無の戦争なんてほとんどないんだから、

よくある戦争中のレイプや虐殺に「南京事件」というラベルを

貼れば、はい、一丁、南京事件のできあがり!なわけです。

この意味で、「歴史的事実」などいくらでも捏造できるし、

それを立証することなど簡単だ。

やってもらおうじゃないか。お題は「日露戦争において日本軍はロシア軍の捕虜を万の単位で虐殺した」か「アジア・太平洋戦争において、アメリカ軍は国内の収容所に収容した日本軍捕虜を組織的に多数殺害した」のどちらか、でどうかな? で、それを日露の、あるいは日米の近現代史家に納得させ国際的に認知させてみろ、っての。実際にトライしてみれば「口からでまかせを言うこと」と「説得力のある歴史記述を行なうこと」の間にある、途方もない距離に気づくはずだ。


ああそうそう、ついでに言っておく。「日露戦争において日本軍はロシア軍の捕虜を万の単位で虐殺した」か「アジア・太平洋戦争において、アメリカ軍は国内の収容所に収容した日本軍捕虜を組織的に多数殺害した」のどちらかを実際に「歴史的事実」として通用させてみる努力をしてみれば、他人事として「肝心な部分を議論していない」だの「素人の目から見ても、ツッコミどころ満載」だのと言うことの無責任さがよくわかるだろう。「とても簡単」と啖呵を切った以上、是非ともやってもらいたいもんだ。


ブクマコメント見ていると、正月早々血圧が上がりそうだ…。「反歴史修正主義者」が土俵に上がると困る人がなんか言ってますな。
http://b.hatena.ne.jp/entry/http://fromdusktildawn.g.hatena.ne.jp/fromdusktildawn/20080103/1199312777


ちなみに、笠原十九司氏の『南京事件』が新書で248頁、秦郁彦氏の『南京事件』が同じく新書で269頁(「増補版」の方はこれより長くなっている)、藤原彰氏の『南京の日本軍』がだいたいB6版で124頁。『南京の日本軍』の場合で、非常におおざっぱな計算だけれども原稿用紙にして230枚程度の分量になる(笠原本だと380枚ほど、秦本だとさらに増える計算)。これらはいずれも一般読者向けの概説書だから、本気でやるならさらに字数は増える。図版も使用許諾をとるかフルスクラッチで書き起こす必要があるわけで、はてなポイント1万点貰ったって割りにあわないのは別として、それだけの量のひとまとまりのテキストをブラウザで読む人間はまずおらんでしょう。千円札でお釣りが来る新書買った方が楽じゃないですか?


さらに追記
http://b.hatena.ne.jp/entry/http://d.hatena.ne.jp/Apeman/20080103/p6

ネットで歴史を語る人たちは興味深いな。美味しいモノ食べたり女の子とエロいことしたり金儲けしたりする時間を削って、こういうことに時間とエネルギーを注ぎ込むなんて、オイラのような凡人には理解できんわ

だそうですが、「簡単」なんだから必要な「時間とエネルギー」なんてたかがしれてるよね。さあ、待ってますよ。