在韓米軍と売買春

ナショナリズムの狭間から―「慰安婦」問題へのもう一つの視座』を書いた山下英愛さんの講演で、在韓米軍相手の売買春地帯で国家による性病管理が行なわれていたこと、元売春婦の女性が告発の書『アメリカタウンの女大将―死ぬ5分前まで叫びつづける』を韓国で出版し、今年御茶の水書房から邦訳が刊行予定であること、などを聞いたことがあります。こういうことを調べて紹介するのは「米軍がRAA設置を命じた〔ママ〕」とか主張する人びとではなくて、彼らが言うところのサヨクなんですな、結局。
ところで、山下氏によれば、韓国でも90年頃までは米軍相手に売春する女性たち(というより米軍将兵が買春の対象とした女性たち)が「慰安婦」と呼ばれていたそうです。講演会のレジュメに私が書きこんだメモがありますんで記憶に間違いはないと思うんですが、山下氏の著作*1とか論文にその旨の記述があることをご存知の方以外は、さしあたり「山下英愛がそう言っていた」ではなく「山下さんがそう言っていた、とApemanが書いていた」とご理解ください。
もちろんこのことは、NYタイムズが「元娼婦」として報じているものを産経が「元慰安婦」と変換したことを免罪するものではありません。とはいえ、「慰安婦」問題が大日本帝国の国家犯罪であるだけでなく、男性優位社会での性暴力という普遍的な問題につながっていることを示唆してはいます。「慰安婦」と呼ばれるようになった経緯も呼ばれなくなった経緯も知りませんので(いま思えば質問しておけばよかった……)以下はあくまで憶測ですが。もちろん韓国社会にも旧日本軍の慰安所制度を生んだ性差別の構造とよく似た構造があり、韓国の支配者層にとって当時(表立っては語られなかったかもしれないが)記憶に新しかった「慰安婦」というユーフェミズムは便利だったのでしょう。あるいは偶然に、似たような発想から同じユーフェミズムが使われたのかもしれませんが。90年頃から呼称が変わったということは、当然旧日本軍の慰安所制度が問題化されたこととつながっているでしょう。それが家父長制的メンタリティとナショナリズムの合力によるものなのか、女性たちの側の異議申し立てによるものなのか、興味があるところです。

*1:実は『ナショナリズムの狭間から』は全部読めてなくて……。