本気で勝つ気があるとは思えない裁判を起こす人びとについて


いわゆる「百人斬り競争」訴訟が高裁でも原告敗訴に終わったわけだが、控訴審は一回の口頭弁論だけで、原告側の証人申請をすべて斥けてあっさり結審。いかにもともと勝ち目のない訴訟であったかを示唆しているといえよう。どうせ南京事件否定論者は「裁判官が偏向している」とか言い出すんだろうが、「偏向」判決下すならもうちょっと格好つけるもんでしょう、裁判所も。
だいたい、自民党議員でもある原告側代理人、稲田弁護士にしてからが、争点の理解能力orやる気を疑われかねないような主張をしている。

前述のとおり良識ある日本人であるなら「日本刀で100人以上の中国人を斬り殺す」などということがいかに荒唐無稽な作り話であるかを一瞬にして見抜くことができるはずであるが、原審の裁判官らはその荒唐無稽さが理解できないくらい目が曇っているのか、それとも 3人の名もない高齢の女性たちの人権を擁護する判決を書いた場合の社会的影響の大きさを政治的に判断した結果なのか、結果として極めて理不尽な結論を出した。
(原告側準備書面より)

判決を受けてさっそくいくつかのブログにアップされた勘違い記事とまったく同じレベルのことが書かれているのである。「日本刀で100人以上を斬り殺す」ことが可能であるかどうかなど、そもそもこの裁判の争点にはならないのである(ついでに言えば、「どのような条件の下で」なのかを明確にしないかぎり、「日本刀で百人以上を斬り殺す」ことが「荒唐無稽」かどうかは判断できない、とするのが「良識」ある人間だろう)。


この準備書面に関して dempax さんが
『諸君!』『正論』『WILL』あたりで稲田弁護士本人か高池弁護士が≪裁判所の不当な政治的訴訟指揮による言論弾圧の被害者≫を声高に演ずるのであろう(創造進化論者やホロコースト否定派がとる戦術). 傍聴席から失笑が起きたほどの≪お笑い芸≫を≪言論弾圧の被害者≫稲田弁護士が演じたことは記録しておこう.
と予測しておられるのだが(http://d.hatena.ne.jp/dempax/20060223)、それが見事に的中したことについては私のこのエントリをご参照いただきたい。


そもそも、南京事件否定派がこの件についてキャンペーンなどはらなければ、本多勝一によってよく知られることになった「百人斬り競争(その実態は据えもの斬り競争)」も徐々に忘却されていったはずである(南京事件そのものではなく、なまじ戦意高揚記事によって目立ってしまったために戦犯指定された下級将校の名前が忘れ去られたからといって問題はあるまい)。「うるさい連中がきゃっきゃいう」というのは否定論者にこそあてはまることであって、南京軍事法廷の裁判資料が公開されるといったことでもないかぎり、「南京事件=あった」派の研究者やジャーナリストがこんにち「百人斬り競争(その実態は据えもの斬り競争)」に積極的な関心を抱くことなどないのである。否定論者が遺族を利用した「訴訟ショー」なのではないか、という青狐さんの見方に私も同意する。


(初出はこちら