半藤一利/秦郁彦/保阪正康、「徹底検証 昭和天皇「靖国メモ」未公開部分の核心

報道前に日経からメモを示され相談を受けていた二人が登場するだけに、「捏造」説等は一蹴されている。現物を見た半藤氏にとっては「捏造」説があること自体意外だったようだ。報道された部分だけでなく、「もっと全般を幅広く見て、そのうえで、信頼性の高い史料だと判断」したという秦郁彦の言葉に半藤一利も同意している。保守派とはいえA級戦犯合祀に諸手をあげて賛成するようなタイプではない二人の証言だけに、ネトウヨ諸氏には不満が残るかもしれないが、まあ人間往生際も肝心ですよ。
「松岡や白鳥は許していないけど、他のA級戦犯の合祀は認めていた」説については、半藤氏が「《その上》とあるのに? 素直に読めばいいのに」と一刀両断。いやまったくその通りでしょう。昭和天皇は東條を買っていたはずだ、という主張について「頼りにならぬ陸海軍の統帥部長に比べて、相対的に、東條がマシに見えたのでしょう」とあしらっているのが秦氏。この3人が「反日サヨク」認定されないか心配だ(笑) 「戦争末期には東條もまったくアテにならず、天皇は、アメリカの短波放送で戦況を聞いていたんですよ」という裏話まで。また、例のメモだけでなく、富田元長官の日記にも数カ所、天皇靖国批判が記されているとのことである。秦氏遊就館の展示についても「歴史観とか主義主張のトーンが露骨すぎ」る、「またそういうところに限って英訳が添えてある」「〔遊就館は〕「参戦によってアメリカ経済は完全に復興した」というんですが、僕は、対日参戦でアメリカ経済が復興したという話は初めて聞いた」と批判。靖国に文句言うのは中韓だけ、とタカをくくっている手合いへの、保守派ならではの危惧を二人とも表明している。だって、東京裁判を否定したら一番面子をつぶされるのは中国でも韓国でもなく、アメリカだからね。
また、すでにネット上でも指摘しておられた方がいたはなしだが、松平宮司と平泉皇国史観とのつながりが指摘され、昭和天皇の意に反した合祀の背景ではないかとされている。記事になったタイミングから「謀略」ではないかとする説についても、二人とも否定的。「むしろ、日経は及び腰でしょう」というのが秦氏の感想。まあ、ここのところは現状では何とも言えませんな。ただ、保阪氏は、「昭和天皇も、伝えてほしいと思っていた節もある」という秦氏のことばを受けて、侍従ではなく宮内庁長官を呼んで話したことは「公的な性格が強い発言」、と。「公的」って言われても困るんだけどね。


 小泉首相の反応については次の通り。
 半藤 しかし小泉さんは、昭和天皇が、歴史をふまえてこうした思いを吐露したことを、理解しているのかな。
  それはないでしょう。勘のいい人だから、地雷を踏まなかっただけですよ。

 その他、靖国関連以外の部分について。
  微笑ましいものも多いですよ。これは未公開部分ですが、昭和六十二年一月のメモに、曽我剛東宮侍従からの話として、《礼宮のヒゲ、陛下も好まれず(ト部侍従から)と申しあげたが、何にでもトライしたいのだから、しばらく温かく見守って、と両殿下の受け止めとのこと》とある。昭和天皇が、礼宮が口髭を伸ばしたときに、好ましくないと言ったのを、皇太子(現天皇)と美智子妃がかばわれたんでしょう。
 半藤 ご自分も、同じ年頃のときには髭をたくわえていたのにねぇ(笑)。
ま、これはたしかに微笑ましいはなしですな。