富坂聡、「中国が仕掛ける遊就館戦争」

連載「誰も書けない中国」の第6回。過去の連載は読んでいないが、今回の記事は他の記事とのタイミングぴったり。もっとも、とうてい「誰も書けない」内容だとは思えなかったが。


遊就館戦争」を中国が仕掛けている…というのは、中国が各国の在日外交官に遊就館の見学をはたらきかけているらしい…ということ。中国が日本の機密文書を盗み出してリークしたというならともかく、堂々と公開している展示を宣伝されたからといって文句は言えませんわな。靖国神社も収入源に悩んでいるそうなので、遊就館の入場料収入に貢献している中国に感謝すべきかもしれない(笑)
著者はまず、身も蓋もない現実を提示する。すなわち、東アジア情勢に関するアメリカ人の圧倒的な無関心、である。「日本、中国それぞれが米国内でどのような影響力を持ち、互いに鎬を削っているかを比べようとしてみても、それ以前にまず立ちはだかるのは圧倒的な無関心という壁なのだ」(129頁)、と。ま、そんなもんでしょうな。
そのうえで、「日本を中心に東アジアの政策を組み立てる」というアメリカの基本方針に揺らぎがないわけではない、と著者は警鐘を鳴らす。そして靖国問題に対する米国内の意見を次のように分析する。

  1. ブッシュ・小泉の強い個人的関係に基づき、日本を支持(しかし、日中関係にあまり関心はない)。
  2. 共和党「ニューリアリスト」グループ。歴史認識問題で日本を支持することはない。
  3. 民主党右派。歴史問題を上手く処理できなければ日本のアジアでのプレゼンスは低下すると考え、アメリカの介入も検討。
  4. 民主党左派。歴史認識問題では極めて中国に近いスタンス*1

 その他、中国のロビー活動の成果については意見が分かれている、靖国をよく知る専門家の中では日本にとって厳しい意見がある、といった指摘が。
(…)〇三年まで国防総省のアドバイザーを務めたアトランティック・カウンシルのバニング・ギャレット氏は、「あれがいかに反米的かを私は知っている。アメリカ人にとっても他人事ではない。日本バッシングの色彩はないと日本人が考えるならば、それはブッシュ政権の与えた幻想だ」と強い口調で靖国を批判した。また、前出のコトラー氏も「遊就館の真実を知れば多くのアメリカ人は怒る。そうなればA級戦犯だけの問題ではなくなる」と警告する。
ま、当然ですよね。

9月号全体として、保守穏健派の危機感が伝わってくる、という印象。要するにアメリカを舐めすぎていたことにようやく気づいて「こりゃちとヤバい」と思ったということか(これ以上日中関係を悪化させたくない、という目論見もあろうが)。いやもちろん、保阪氏をはじめとする個々の論者は別に日和ったわけではなく従来からのスタンスで書いて(語って)いるのだが、そうしたスタンスのものを8月に発売される9月号に集めたことの意味は明白だろう。読売新聞の軌道修正とも通じるところがあるか、と。

*1:戦争犯罪への見方がもっとも厳しいグループだから、であろう。