『つらい真実 虚構の特攻隊神話』(小沢郁郎、同成社)

「小泉と特攻隊員」というエントリへのコメント欄でフナずしさんからご教示いただいた『つらい真実 虚構の特攻隊神話』、近所の書店であっさりと見つかりました。この種のテーマの本は「近代史」コーナーにある場合と「戦記」コーナーにある場合があるのでちょっとややこしいです。
爆弾を投下して無事帰還する度に再出撃させられ、「ついには、地上部隊による暗殺までの危険性が高く」なったためファンが身辺警護にあたったという特攻隊員のエピソードは第四章、「虚像と実態」に登場します。毎回無事帰還し、爆弾を命中させたこともあったのですからこのパイロットの技量はなかなかのものと考えられましょう。にもかかわらず陸軍が彼に「死ね」と言い張ったのは、最初の出撃での戦死を上奏してしまっていたから、です。
このパイロットは無事敗戦まで生き延びました。迫り来るアメリカ軍から司令官以下幕僚たちが逃亡してしまったからです。


第三章「犠牲と戦果」では、特攻の命中率、戦果などの冷徹なデータが紹介されています。特にフィリピン戦から沖縄戦にかけて、航空特攻の効果がいちじるしく減少しており、しかも上層部がそれに気づいていた…という指摘は重要です。戦争末期には軍は効果がないことを知りつつ特攻をしいていたことになるからです。敢えて述べますが、これを「無駄死に」と言わずになにをそう言うのでしょうか。あるいは正確には「無駄殺し」と言うべきでしょうか。特攻の「虚像と実像」の乖離を象徴しているのが、「桜花」を米軍が「バカ爆弾」と呼んでいたというエピソード(本書では第二章で紹介されている)でしょう。死者のことを思えば「バカ」呼ばわりはひどいと思いますが、殺した側(米軍ではなく特攻を命じた側のことです)のことを考えれば他に呼びようはないでしょう。