読了

『逆説の軍隊』(戸部良一、『日本の近代9』、中央公論社)を読了。
上のエントリにいろいろとコメント頂戴しているトピックについてだが、第一次世界大戦の戦訓をふまえて歩兵操典を改正する動きもあったとのこと。そこでは「精神力を過大に重視する従来の操典に対する批判」も示唆されていたが、1923年にまとめられた改正草案にはストレートには反映されなかったそうである。その理由は「日本が近代兵器を装備した敵のみと戦うとは限らず、装備の劣悪な相手と戦う場面もあるからだ」という、理由にもならぬ理由である(298頁)。1928年の歩兵操典要綱ではさらに後退した内容になってしまった。
戸部氏は、この時期が皇道派の全盛時代であったことを指摘している。さらに遡れば、宇垣軍縮は四個師団削減を代償として装備の近代化を目論むものだったが、軍の大勢はとにかく師団数を維持する(あわよくば増やす)ことを支持していたという。派閥争いや既得権益の擁護が結果として軍の近代化を阻んだと言いうるわけである。国力が劣るが故の負け惜しみで精神論をぶつならともかく、本気で精神力が物量に勝ると考えているのなら要注意だ、という趣旨の皇道派批判を吐いた永田鐵山は、軍務局長(少将)在任中、皇道派の中佐に執務室で斬殺されてしまう。