戦争犯罪と刑事犯罪

コメント欄で情報提供をいただいた、「黙然日記」さんの「視点を変えてみる。」について。

 地下鉄サリン事件12年に絡めて、犯罪被害者の心情を訴えています。たしかにこのA(殺人事件を犯した元少年)の発言はひどい。しかし産経抄そのものはあまり面白くなくて、最終段落の偉そうな態度がどうなのよ、ぐらいのところです(抄子は被害者の気持ちが本当にわかるのか?)。
 ここまでは前フリ。産経抄に毎日ツッコミを入れ続ける2ちゃんねるのスレがあるんですが、素晴らしい書き込みがあったのでそれを紹介します。


産経抄』ファンクラブ第76集
http://society6.2ch.net/test/read.cgi/mass/1173517007/572
572 名前:文責・名無しさん [] 投稿日:2007/03/21(水) 09:53:00 ID ShXPjA/e0
「われわれはいつまで頭を下げ続けなくてはならないのか」
と、加害者に開き直られたら頭にくる、ということだけはよくわかった。

私も何度かとりあげてきた、刑事犯罪と戦争犯罪とでの右派のダブルスタンダードを突いているわけですね。刑事事件の犯人には非常に厳しい態度をとるのに、戦争犯罪にはむやみに甘い、と(彼らは中国や韓国の戦争犯罪についてすら甘い、と思います。そりゃあ『正論』や『WiLL』には中国を非難する記事がいくらでも載りますが、例えば国際刑事裁判所に訴えようといった試みを真面目にやったというはなしは聞いたことがありません)。南京事件に関してはあらゆる手を尽くして証拠にケチを付けたり捕虜の殺害を正当化しようとするのに、事件当時19才だった被告の死刑を回避しようと努力する弁護人(山口母子殺害事件)には罵声を浴びせるわけです。
私のブログの「本館」はかつてロッキード裁判問題がメインコンテンツでした。『諸君!』が一刑事被告人のために論陣を張るという希有な現象だったのですが、ロッキード裁判批判(田中角栄擁護論)には実に奇妙な点があります。同じ公判(丸紅ルート)で裁かれている丸紅側の被告や榎本秘書のことはほとんど話題にならない。ひたすら田中角栄だけが擁護されているのです。だが刑事被告人としてみた場合、田中は自白調書も取られずに簡単に保釈されています。被疑者の権利という観点からまず問題にしなければならないのは、自白調書を取られた丸紅側被告、そして榎本被告であるはずなんですね。「刑事被告人の権利」が本当の掛け金でなかったことを示すなによりの証拠です。
刑事被告人というのは国家権力と争っている人間です。だからこそ、かなりの確率で犯罪者であるにもかかわらず、被告人の権利を守ることには大きな意味があるわけです。しかし(戦犯裁判の当時ならともかく現在は)旧軍の戦争犯罪に関して責任を問われているのは日本という国家です。そして戦争犯罪に関する限り右派はひたすら国家を擁護しようとする傾向が強い。つまり、一見するとダブルスタンダードにみえるものも、「国家」への一体化に基づくふるまいだと考えればある意味では首尾一貫しているわけです。しかし一貫して「被害者」の視点からものを考えるならば、これはやはりダブルスタンダードである*1

「われわれはいつまで頭を下げ続けなくてはならないのか」
と、加害者に開き直られたら頭にくる、ということだけはよくわかった。

どれくらい多くの南京事件否定論者が“よくわかる”のか、気になるところです。

*1:被害者の視点を重視したとしてもなお、刑事事件に関する限り被告人の権利を擁護すべき理由があることについてはすでに述べた。