笹川良一の見た松井石根、谷壽夫

本日の収穫、『笹川良一の見た! 巣鴨の表情 戦犯獄中秘話』(文化人書房)。



扉の写真。すごいセンスだ…。


写真のキャプションに笹川良一「氏」とあるが…



実は著者は笹川良一本人ではなく、櫻洋一郎となっている。


本書成立の背景をいろいろと想像させるのが「祝 笹川氏帰還」の広告。左は見開きではなく裏表のページを合成。


 


笹川良一が語るところでは、松井石根は当初「笹川さん、僕は罪が決れば伊豆あたりで十年位魚釣りでもしますかなあー」と笑っていた、とのことである(150頁)。それに対して笹川は「さあー、それ位ですめば結構ですがねー」と答えておいたが、内心「この人は相当重いのぢゃないか」と予想していたとのこと(151頁)。というのも、「中国各地に於ける日本軍一部の行動が野蛮悪虐、鬼畜に等しかった事実は遺憾ながら率直に肯定せざるを得ない。特に南京入場に於ける大惨劇は長く史上に伝わる日本民族の最大なる不名誉である」という認識を持っていたからである(149頁)。
もっとも、公判が進むにつれて松井石根の態度には変化が見られ、「笹川君、僕は一日も早く裁判が終って一日も早く絞首刑になる事を希望するよ」と語っていたとのことである(152頁)。これは巣鴨拘置所教誨師だった花山信勝が『平和の発見』(朝日新聞社、この本も本日入手した)で伝えている松井石根の発言とよく符合するので、松井がそのような発言をしていたことは事実と考えてよかろう。また、アメリカ人弁護人の「誠心誠意」の活動ぶりが高く評価されているのだが、「この気持ちは一寸日本人には理解し難い処」と率直に語っているのが注目される。光市事件の被告弁護団への敵意にあふれた今の日本社会にも、アメリカ人弁護人たちの職業倫理は理解されないのだろうか。


もう1点、のちに中国に引き渡されて死刑になることになる谷壽夫が一時期松井石根の隣室に収容されていたとの記述がある。「両人顔を合せる時、其の感慨はまことに無量なるものがあったろう」(150頁)と推測しているだけで、二人のあいだにどのような会話があったのかは残念ながら記録されていない。