兵士たちはなんと言い残して亡くなっていったのか
旧軍将兵の従軍記、回想記などには(士官学校出の正規将校のものはちょっと別として)しばしば、「天皇陛下万歳! と言って死んでいった兵士などいない」といった趣旨のことが書いてあります(この夏にNHK BSHiで放送された「兵士たちの戦争」シリーズでもそうした証言があった)。『日中戦争の軍事的展開』(慶応義塾大学出版会)の第9章、河野仁の「日中戦争における日本兵の士気――第37師団を事例として」で引用されているある元上等兵のインタビューでは、「天皇陛下万歳といって亡くなった戦友を見たことがありますか」という問いに対し、「天皇陛下万歳? そげんバカはひとりもおらん」という激しいことばで否定的な回答がなされています。この点について、具体的な数字を挙げて証言しているのが『ソロモン軍医戦記』(平尾正治、光人社NF文庫)です。その「あとがき」によれば、最期を看取った将兵が126人。このうち、「天皇陛下万歳」と唱えてこと切れたのは「敵弾に倒れたわずか二名にすぎ」ず、あとは「いいあわせたように、「おっかさん」といまわのきわに母の名を呼びつつ息をひきとった」とのことです。