書評『戊辰戦争』

今日の朝日新聞の書評欄に『日本の戦争史18 戊辰戦争』(保谷徹、吉川弘文館)の書評が掲載されています(評者は野口武彦)。このシリーズは22巻『満州事変から日中全面戦争へ』(伊香俊哉)と第23巻『アジア・太平洋戦争』(吉田裕・森茂樹)を買って読んでいるのですが戊辰戦争までカヴァーするのはちょっと大変で、しかし沖縄戦「集団自決」をめぐって「国民の歴史」の亀裂が露になっている今日、戊辰戦争を見直すことは非常に重要であろうという思いもあって思案中ですが、とりあえず書評の紹介、ということで。
評者によれば従来の戊辰戦争研究が維新政権の「権力規定」を中心になされてきたのに対し、本書は軍事史の観点から戊辰戦争をとらえ、「ライフル銃段階に照応するある種の軍事革命」として理解しようとするもの、だそうです。
このブログで何度か問題にしてきた戊辰戦争時の残虐行為にも触れられているようです。また日中戦争との関係では次の一節(書評の、です)はなかなか示唆的です。

 その眼差しは、幕末史の謎の部分にも向けられる。たとえば勝海舟西郷隆盛の腹芸で有名な江戸無血開城。総攻撃の中止は、横浜屯集の英仏陸戦隊五六〇名及び五カ国十四隻(砲二百十一門)の艦隊と無関係だったろうか。

日中戦争の泥沼化に関しては陸軍のいわゆる「支那通」と呼ばれる軍人たちが中国におけるナショナリズムの興隆を見損なったことが一因になっています。他ならぬ松井石根がそうした「支那通」の一人で、彼が軍中央の制止を無視して南京攻略〜傀儡政権樹立にはしったのは彼が「中国人には統一政府をつくる能力がない」とする分治論者だったからです。しかしその70年前の日本では欧米列強が日本の各勢力のバックについて日本に食い込むチャンスをうかがっていたわけで、一歩間違えば日本こそが「統一政権をつくる能力がない」というレッテルを貼られていた可能性もあったでしょう。