「パレスチナ人はショアーを招くだろう」

イスラエルの国防副大臣が、ハマスのロケット弾攻撃に対する報復—として記述すること自体すでに問題なのだが—への決意を語る際、「パレスチナ人はショアーホロコースト)を自らの身に招くことになるだろう」という趣旨の発言をした、という驚くべき事実が報道されています。もちろん驚くべきなのはこれだけではなく、この発言及び関連するガザでの大量殺人が日本でろくに報道されていないという事実、そしてイスラエルの閣僚たちが副大臣の発言について「ジェノサイドを意味したものではない」と擁護している事実も同様に驚愕すべきことです。
いうまでもないことですが、ホロコーストは歴史上の大量殺人を相対化するのではなく、その個別性においてこそとらえねばならないという哲学的な主張の核にあった出来事です。その意味で、副大臣の発言以上にその擁護論こそがホロコーストをめぐる議論の積み重ねを踏みにじり、ホロコースト否定論を利するものであると言うことができます。また、敢えてこのような言い方をするなら、イスラエルの「国体」観念を構成しているといってよい「ショアー」概念をこのように濫用したことは、イスラエルにとって決定的な外交的失点となって然るべきことです。この失態によって仮に、パレスチナ問題を覆いがちであった「どっちもどっち」的態度の放棄をEU諸国が*1迫られるのだとしても、すでに失われた命がそれぞれに「比較」を越えたものである以上“埋め合わせ”がつくわけではないのですが。

*1:アメリカと日本については、それぞれ違った理由で、この発言に関して決然たる態度をとることなど期待できないので。