現時点では「思想・信条の自由」のためにこそ防衛監察が必要なんじゃないですか、百地先生?

こういう事態になると急に日本国憲法が愛おしく思える方々がおられるようで。
【正論】日本大学教授・百地章 空幕長更迭と「思想信条の自由」

 やはり懸念していたとおりの展開となった。田母神俊雄航空幕僚長の更迭をきっかけに、防衛省では田母神氏と同じ懸賞論文に応募していた幹部多数に対して、防衛監察に乗り出した(産経新聞11月15日付)。記事によれば、防衛監察は通常、業者との癒着などの不祥事を対象とするもので、論文内容についての監察は異例であり、「思想・信条の自由に踏み込みかねない」などといった強い反発が起こっているという。
 確かに田母神問題についていえば、たとえ個人的な見解であれ、航空幕僚長という要職にある人が政府見解(「村山談話」)と相いれない論文を公表したことについては批判の余地があろう。つまり、「表現の自由」については、立場上、一定の制限を受けてもやむをえない。しかし「思想・信条の自由」となれば別である。

「幹部」というのがどのレベルのポストを指しているのかなどが不明ではありますが、例えば投稿者に対し論文に記された主張を棄てるよう強要するとか、田母神元空幕長と似たコピペ史観を開陳していた隊員に退職を迫る、といったことが行なわれているとするなら、なるほど「思想・信条の自由」に関わる由々しき事態であるといえましょう(もっとも、コピペ史観の持ち主を重要なポストに就けないようにすることは、純粋に軍事的にいっても合理性があるでしょう)。しかし、現在報道されている限りでは、この防衛監察の趣旨は次のようなものです。

YOMIURI ONLINE 2008年11月15日10時49分 「空自の懸賞論文大量投稿問題、「防衛監察本部」が調査開始」
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20081115-OYT1T00274.htm?from=main2


 田母神(たもがみ)俊雄・前航空幕僚長(60)(3日付で定年退職)が、昭和戦争などに関して投稿した懸賞論文の内容を巡って更迭された問題で、97人もの空自隊員が同じ懸賞論文に投稿するに至った経緯を調べるため、防衛相直属の防衛監察本部が監察に乗り出したことがわかった。


 防衛省によると、監察を始めたのは今月11日から。ホテル・マンション経営アパグループが「真の近現代史観」をテーマに今年5月10日から募集を始めた懸賞論文には、第6航空団(石川県小松市)で62人、航空救難団(埼玉県狭山市)では16人の空自隊員が投稿していた。


 これに関して空幕教育課長が5月20日、全部隊に懸賞論文の応募要領をファクスし、6月中旬には小野田治・空幕人事教育部長(当時)が主要部隊に投稿を促す趣旨の手紙を郵送したことが判明しており、監察本部では、この経緯や前空幕長からの指示がなかったかどうかを調査する。
(後略)

集団での応募がアパに対する一種の便宜供与であることを疑う余地があるわけですから、事情聴取は「通常、業者との癒着などの不祥事を対象とするもの」という(百地教授が考えるところの)防衛監察の趣旨に見事にかなっていることになります。さらに元空幕長が統合幕僚学校のカリキュラムに関与していたことをふまえると、(1)論文を提出するようにとの圧力があったのではないか、(2)内容について指示などはなかったのか、(3)元空幕長らが、自らのコピペ史観に異議を唱える隊員に不利益を与えていたのではないか、(4)コピペ史観に異議を唱える統幕学校学生に対し不利益を与えていたのではないか……といったことも「疑惑」として考えることができます。(2)〜(4)はむしろ元空幕長こそが自衛隊員の「思想・信条の自由」を侵していたのではないか? という疑惑です(もちろん、現時点ではあくまで疑惑、懸念であり具体的な証拠があるわけではないですが)。「思想・信条の自由」のためにこそ、防衛監察が一連の経緯を明らかにすることを期待したいと思います。