野中広務氏が聞き伝える体験談について

47 NEWS 「後援会員が「殺した」と告白 南京占領71周年で野中氏」

 旧日本軍の中国・南京占領から71年になる13日、市民団体が「南京事件71周年集会」を東京都内で開き、野中広務自民党幹事長が講演で、1971年に後援会の人たちと南京を訪れた際、日本軍兵士だったという1人が「女子供を百数十人も殺した」と告白したエピソードを紹介した。
(中略)
 この後援会員は「占領した市内の点検を命じられ大きな土塀の家を調べたところ、中は女子供ばかりだった。上官に報告すると、『その中に便衣隊(民間人を装った軍の部隊)がいるんだ。皆やっちまえ』と言われ、目をつぶって、恐らく百数十人を全部殺してしまった」と話したという。
(後略)

この記事のブクマコメントにこういうものがある。

lizy 中国, 歴史 事実関係は分からんけど、「目をつぶって、恐らく百数十人を全部殺してしまった」これじゃ突っ込みどころを与えてるだけでは…… 2008/12/14

で、ブログ検索をしてみるとなるほどその手の「突っ込み」をやっているところがある。
http://plaza.rakuten.co.jp/kasuya/diary/200812130001/


まずは「目をつぶって」が文字通りの意味だと決めつけてるのがなんとも。この元兵士がどのような意味で語ったのか、野中氏によればすでに亡くなられているとのことなのでいまとなっては確認しようがないし、野中氏がどう理解したのかもはっきりしないわけだが、少なくとも「目をつぶって」には「見て見ぬ振りをして」という比喩的な(というより死喩といってよい)意味もあることは常識であるわけで、「ムリ」というのならそう言う側が「これは文字通りの意味である」ということを立証する必要があろう。
さらに、仮に文字通りの意味だとしても、野中氏が聞かされた話の詳細を知れば「ムリ」なことなどない、ということがわかる。当ブログの読者の多くはご記憶かと思うが、野中氏はすでに昨年、同様な体験を講演で語っている。その講演はこちらで紹介した冊子にも収録されている他、『世界』の2008年1月号にも掲載されている。

(・・・)「南京の城内に入った時、土嚢が積まれた家がありました。扉を開けて中を見ると、女性と子どもがいるばかりだったので、私は上官に『ここは女、子どもばかりです』と言って扉を閉めようとしたのですが、上官が『何を言っているのだ、その中に便衣兵がいるのだ、例外なしに殺せ、容赦するな』と言って命令を下し、私たちはみんな目をつぶって、火をつけてこの人たちを殺してしまった。戦争の中で一番嫌な体験です。戦争から帰ってきてもずっと心に消えないまま残っていて、私の夢に現れてきます。(・・・)
(『世界』、08年1月号、241頁)

仮に兵士たち全員がみな文字通りに目をつぶった、というかなりありそうにない解釈*1をしたとしても、それは火をつける時のことであって、「目をつぶって」小銃を撃ったとか銃剣で刺したということではない。

*1:この証言者の方が文字通りに目をつぶっていたなら、他の兵士がどうだったかを知ることは出来ないわけであり、彼は戦友たちの多くが自分と同じ心境であったと信じてこう表現したのだ、と考えるのがあたりまえの読み方というものだろう。