「五月広場の祖母たち」

先ほど探してみたところネット版にはない記事のようだが、今朝の朝日新聞(大阪本社)朝刊に「孫101人奪還 祖母ら執念」と題する記事が掲載されている。76年のクーデター以降アルゼンチンの軍事政権が行った「左翼狩り」のなかで、「妊娠中の女性は強制収容所で出産。女性や夫はその後に殺され、乳児は独裁政権の協力者や将校らが養子にしたり、孤児院に預けられたり売られたりした」とのこと。幼子を抱えた女性が拉致され子どもが孤児院に預けられるなどしたケースもある。孫を奪われた祖母らが77年に「五月広場の祖母たち」という会をつくり、これまでに101人が「奪還」されたものの、まだ行方の明らかでない子どもが400人ほどいるという。
記事では真相を知った数人の孫たちが紹介されているが、自分の親だと思っていた人間が実は親の敵やその協力者であったということを知ることは自己認識を大幅に揺るがさずにはいないわけで、子どもまで殺すよりはマシと断言するのもためらわれる。
なお軍事政権サイドが子どもを育てたのには「親のような左翼思想に染まらないようにし、軍政側に近い考えの人間を増やすとの思惑」があったとされている。現行のジェノサイド防止条約では政治集団の抹殺はジェノサイドとされていないものの、手法としてはジェノサイドに非常に近いと言えるだろう。


南米の反共政権の国家犯罪に関しては、こんな報道も。

ピノチェト時代の国家犯罪の責任を問われて収監されている囚人(のうち悔恨を示している者)に恩赦を与えるようチリのカトリック教会が請願し、保守派の大統領がこれを拒否した、とのこと。個別ケースでの恩赦の検討までは否定していないが、"murder, terrorism, rape or crimes against humanity" などの重大な犯罪に関わった者への恩赦はない、と。
赦しへと人びとを促すのは宗教教団の果たし得る役割の一つであると言えるかもしれないが、犠牲者やその遺族にではなく大統領に、それも「チリ独立200年」を記念しての恩赦を提案するというのは、“反共の暴力に甘い”と批判されても仕方ないのではないか。


追記:分類タグについて。タグはあまり増やしても意味をなさなくなるし、かといって一つのカテゴリにあれこれ詰め込んでしまうのもよくないので悩むところですが、残念ながら南米の独裁政権化での国家犯罪を扱うエントリのためのカテゴリーをつくるほどには問題に通じていないことを考えて、現状のようにしました。