『私たちの中のアジアの戦争』

  • 吉沢南、『私たちの中のアジアの戦争 仏領インドシナの「日本人」』、有志社

今年の5月に出た本だが、当初は1986年に朝日選書として刊行されたもの。著者は2001年に亡くなっているので、再刊にあたって加筆されているといったことはない。約四半世紀前の文献を再刊する意義については、大門正克・横浜国大教授が「解説 未完の同時代史研究」で明らかにしている。すなわち、中国史・ヴェトナム史を専門としていた著者のオーラル・ヒストリー(著者の言葉では「聞き取り」)への取り組みの再評価、である。
アジア・太平洋戦争期におけるヴェトナムと日本との関わりというと「仏印進駐」は多くの人が知っているだろうし、対戦末期に発生した飢餓や明号作戦を思い起こす人もいるだろうが、それ以上のことはあまり知られていないのが実態だろう。そうした知識の欠落を幾分か補ってくれる*1という側面もさることながら、やはり著者が「聞き取り」の方法論について模索するプロセスを部分的にではあれ追体験できるのが本書の値打ちだろうと思う。
副題の「日本人」に「 」がつけられている一つの理由は、聞き取りの対象者の一人に台湾出身の「元日本人」がいることである。その林文荘さんが1979年になってようやく、「難民」としてヴェトナムを出国し80年に日本に到着するまでの軌跡(さらには日本到着以降の日本政府の措置)は改めて日本の戦後処理がどのようなものだったのかを問う契機になる。


一昨日の晩に休み休み書いていたらパソコンがスリープから復帰しなくなりさらにはシステム・ディスクがマウントされなくなってしまったので復旧に一日とられてしまい、当初の予定より簡単なエントリになってしまった。また機会を改めてとりあげ直してみたい。

*1:例えば日本軍がヴェトミンに対しても「治安戦」を行っていたこと、など。