『東京裁判における通訳』ほか

出た時から気になっていた本だが、ようやく読んだ。カバーのキャッチ・コピーより。

 本書では、東京裁判の通訳について誤解を正す意味で、いったい誰がどのように通訳業務を遂行したかについて、さまざまな事実を掘り起こすことを第一の目的とした。
 日米両国で入手した資料やインタビューを基に通訳作業の全体像に光をあてるとともに、通訳体制の三層構造、通訳手順成立の過程、二世モニターの複雑な立場といった、東京裁判通訳における際立った特徴に焦点を当てた考察を行う。
 本書の第二の目的は、東京裁判通訳に関する事象を、通訳・翻訳学における理論や概念を基に分析・解説することである。
(後略)

「三層構造」とは最下層に日本人通訳者が位置し、それを日系二世の軍属がモニターし、最上層にヨーロッパ系アメリカ人の士官が言語裁定官、言語部長として位置するという構造を指す。
判決を左右しかねない重大な誤訳を発見! といったセンセーショナルな内容ではないから、東京裁判に関する一般的な関心を前提とするならば従来の東京裁判像を大きく揺るがすような文献ではないかもしれない。それでも、当初は通訳を介したコミュニケーションに不慣れだった裁判官や検事たちに対して言語部を通して通訳者の要望が伝えられ、また弁護側も「要約通訳」ではなく完全な通訳を要求した結果、開廷1年ほどで通訳に関するルールが形成されていったとする著者の分析は、地味であるかもしれないが、東京裁判の審理の実態を今日評価するうえでふまえておくべき知見であろう。
また、今日のわれわれは昭和天皇が訴追されなかったことを知っており、その意味であらかじめの不満なり安堵なりをもって東京裁判関係の文献や資料に接している。その意味で、著者が元通訳の一人から聞きとった証言は、当時の雰囲気を想像する手助けとなる。47年12月31日の審理で東條が漏らしてしまった「いわんや、日本の高官においてや」発言のフォローを試みた翌年1月2日の審理の時のこと。

 岡によると、東京裁判で通訳者を務めた期間中最も印象に残ったことはこの時の東條、キーナン、ウエッブ裁判長の様子だったという。口裏を合わせたかのように必死で天皇を守ろうとするキーナンと東條のやり取りに、もともと天皇訴追を主張していたウエッブが苛つく、その緊張した空気は通訳ブース内にも伝わったという。
(118-119ページ)

ベトナム戦争終結から36年。今も続く枯葉剤被害の取材を続ける映像作家がいる。坂田雅子さん、62歳。坂田さんは、今、アメリカのベトナム帰還兵の子どもへの枯葉剤の影響に注目している。アメリカ政府は、90年代半ばに帰還兵の子どもへの枯葉剤被害を初めて公式に認めたが、その全ぼうは未だに明らかになっていない。自らの体験を語り始めた子ども世代の人への取材を通じ、世代を越え、今なお続く枯葉剤被害の実態を考える。
(http://cgi4.nhk.or.jp/hensei/program/p.cgi?area=202&date=2011-01-30&ch=31&eid=25310)

坂田さんの夫であったアメリカ人写真家は肝臓ガンでなくなったが、やはりヴェトナム従軍中に枯葉剤を浴びていた、という。番組の核となっているのは、枯葉剤を浴びたアメリカ兵の子どもであるアメリカ人女性ヘザー・バウザーさんのヴェトナムへの旅だが、彼女が出会う子ども世代のヴェトナム人被害者の姿を通じて、あらためて枯葉剤がもたらした被害の大きさを痛感させられる。
http://www.cleveland.com/agentorange/index.ssf/2011/01/heather_bowser_children_touche.html
ヘザーさんの旅をとりあげた "Unfinished Business" と題する特集記事(Part1からPart6まで)の一つ。記者のコニー・シュルツ氏はヘザーさん、カメラマンのニック・ウット(ナパーム弾による攻撃から逃げる全裸の少女の写真で有名)と共にヴェトナムを訪問した、とある。しかしNHKの番組内でヘザーさんが撮影していた写真(自分と同じ指の欠損をもつ子どもの、二人の手を並べた構図)が記事中で使われていたので、おそらくは同じ機会に行われた取材と思われる。
http://www.agentorangespeaker.com/default.html
"Welcome to Agent Orange Second Generation Victim" と題するヘザーさんのサイト。坂田雅子さんによるドキュメンタリーは2012年に公開予定、とある。


ところで番組には、ヴェトナム・アメリカ両国でダイオキシンによる健康被害を調査研究してきたアメリカ人研究者や、アメリカ空軍の資料を基にヴェトナムでの被害者数を推定(400万人が枯葉剤を浴びた、としている)しているアメリカ人研究者も登場する。この番組を見た視聴者のうちで彼らを「反米」「自虐」と思った人間がどれだけいるだろうか?