『日本軍「慰安婦」制度とは何か』ほか

昨月末のエントリでご報告したやり取りをしている最中などに、“もし一冊を推薦せよと言われたら?”てなことを考えていました。ご承知の通り「慰安婦」問題については吉見義明氏の『従軍慰安婦』(岩波新書)が超定番になっていますが、この本は1995年刊です。刊行から15年以上経っている文献を挙げることには積極的な意味あいもあります。その間に新たな発見や認識の深まりはいろいろあったにしても、『従軍慰安婦』の記述を根本的に改めねばならない事情がないということは、過去15年ほどの間、日本軍「慰安所」制度に関する学問的な認識が比較的安定していたことを示しているからです。
そうはいっても、やはり最新の事情を反映していない点は否めません。この点、昨年に岩波ブックレットから刊行された同じ著者の『日本軍「慰安婦」制度とは何か』は、米下院決議や "THE FACTS"広告自爆事件などをふまえ、特に広告の主張に反論するかたちで「慰安所」制度が記述されていますので、最近の右派のテンプレへのワクチンとしてはよいのではないかと思います。
もう一冊、刊行年は2000年で中途半端な古さのものですが、峯岸賢太郎氏の『皇軍慰安所とおんなたち』(吉川弘文館、歴史文化ライブラリー)を最近読む機会がありました。著者の専門が近世被差別民史であるという理由からか、ネットではこの文献への言及はあまり多くないようです。ただ、資料(証言、公文書、回想記等)からの引用がかなり豊富で、慰安所の実態がどのような資料にもとづいて解明されているかについてのおおまかなイメージをつかむうえでは有益であるように思います。