誰がどこで間違ってるのか知らないが、とにかく結果としてデタラメな報道

もうどこから突っ込んでよいやら。id:mujin さんが、この文書がアジア歴史資料センターで公開されていたものであることを指摘されています。

私は後述するような理由で、当初この記事を最後まで読んでいなかったのですが、改めて読み直してみると、こんなことがヌケヌケと書いてあります。

金所長は中央日報との電話で、「5月に日本に滞在しながら、日本国会図書館と日本防衛省史料室で1カ月ほど調べた」とし「野戦軍に特種慰安婦を派遣した秘密文書資料が日本防衛省史料集(陸亜密大日記)と『女性のためのアジア平和国民基金』集成(97年)に収録された事実を確認し、この文書を見つけることができた」と説明した。

開いた口が塞がりませんでした。ちなみにこの電文は第2巻「防衛庁関係公表資料(上)」の203ページ以降に収録されてます(PDFがオンラインで公表されています)。それどころか、いま確認してみたところ、92年に刊行された『従軍慰安婦資料集』(吉見義明編、大月書店)にもちゃんと収録されていました。市販された資料集に収録されていた文書を「見つけることができた」とは! 「慰安婦」問題とは無関係に編纂された資料集にたまたま慰安所制度に関連する文書が含まれており、これまで研究者が気づいてこなかった、そういう文書に光を当てたのであれば「発見」といってもよいでしょう。しかしこれは慰安所制度についての資料集に収められていたものです。あんたが知らなかっただけで、とっくに発見されておったわ!
この記事にはさらにミスがあります。

それだけではありません。記事がこの文書を「「秘密文書118号(陸亜密電118号)」と表示されたこの文書」としているのも間違いです。この文書(台電第九三五号)が「陸亜密電一八八号」の後に収録されていることに起因するミスでしょう。
さらに、記事中の「日本陸軍台湾軍参謀長が申請した‘ボルネオ’の野戦軍慰安所に派遣する特種慰安婦50人が台湾に到着した事実を確認し、20人を追加で送る」という要約もデタラメです。ボルネオに向かう「慰安婦」を台湾軍参謀長が「申請」するはずもなく、実際に派遣を要求したのはもちろん南方総軍です*1。50名では足りないと(南方総軍が)言ってきたのでさらに20名送ることを了承されたい、として台湾軍から陸軍省へ送られた電文です。どの段階で間違いが起こったのか知りませんが、とにかく結果としてはお粗末きわまりない記事です。


そもそも日本軍および日本政府の関与を示す史料はこの電文を含めすでに多数が明らかになっていたわけで、いまさら「日本軍が慰安所の運営に関与した事実を立証」などとして記事にすること自体が不当です(だから冒頭部分を読んだだけで、後を読む気をなくした)。記事では金所長について「韓日関係の真実を立証する努力を続けている」と紹介していますが、「慰安婦」問題についてまともな研究などしたことがなかったのは明白でしょう。新聞社の方も、これまでの研究成果の蓄積などまるでチェックすることなく記事化したことは明白です。こういうずさんなとりあげ方が、日本の歴史修正主義者たちを利することは言うまでもないのであって、実に不愉快です。

*1:ネットでは例によって「民間業者の渡航要請」に過ぎないなどと強弁している投稿を見かけましたが、南方総軍の要求を台湾軍が取り次いでいるのであって、これが「軍関与」の証拠でなくてなんだ? としか言いようがありません。