リフトン『思想改造の心理』(2)

承前
リフトンは1954年1月に香港に渡り、そこで17ヶ月にわたって「思想改造」を受けた西欧人25人と中国人15人に面接した。いずれも身柄の拘束が解かれてからさほど経っていない時期の面接であることに留意されたい。
西欧人との面接にもとづく研究結果を総括した部分で、リフトンは次のように述べている。

 西欧人に適用されたような、刑務所内での思想改造の持つ、長期にわたる成功ないし失敗というものについて何が言えるのか。彼らを説得して、共産主義の世界観へ彼らを変えさせるという観点からすると、そのプログラムはたしかに、失敗だと判断されねばならない。私の対象である二五人の中ではただ一人(そして、私のその人たちのことについて話を聞いただけの他多数の人々の中では、一人だけあるいはおそらく二人)が、ほんとうにうまくいった転向者と見なし得る人物であった。追跡調査で得られた情報によって、香港でこの人物たちに面接したときに、観察しはじめて次のことが確かめられた。つまり、思想改造の精神から、中国共産党の行動をより批判的に見るようになるのが一般的ななりゆきであるということである。彼らの釈放後三年ないし四年たつと、彼らのほとんどが、収容される以前に感じていたものとははるかにきびしい感情を共産主義に対して表明している。世界の大きなイデオロギー的問題に対する解答を得るため彼らのあてにしているのは、共産主義ではなくて、彼らが若い頃知った西欧の列強であり、彼ら自身の内なる統合であった。この自分たちのうけた思想改造を意識的に否認するということは、決して、心理的な全景をあらわすものではなかった。しかし、意識的な意見というものは、結局は重要な意味をもってくるものである。
(253ページ、強調引用者)

続けてリフトンは「無意識的な影響力」という点では思想改造が「何らかの成功を克ち得た」と言えるとしているが、同時に「たいていの人」がそうした影響を「中性化するのに成功」しているともしている。引用文中で強調しておいた箇所が示すように、ここでリフトンが考察している洗脳の「長期」的な効果とは「釈放後三年ないし四年」といったスパンでの話であって、身柄が解放されてから半世紀もの期間におよぶ効果となればいっそうありそうにないことは明白だろう。