「講演とトーク 慰安所は、日本軍が設置した軍の施設だった!」

関西にお住いの方にしか役に立たない情報ですみませんが。
明日10月31日、下記要領にて永井和・京都大学教授と渡辺美奈・wam事務局長による講演会が行われます。
日時:2015年10月31日 13:30〜
会場:PLP会館大会議室(JR天満駅・地下鉄扇町駅徒歩5分)

安倍首相が大好きな「法の支配」を重視するなら……

 元慰安婦の賠償請求権問題で、解決に向けた措置を韓国政府が講じなかったのは違憲とした憲法裁判所の判断から30日で4年となったことを受けた論評。

安倍首相は「法の支配」が−−正確には「法の支配」というフレーズを振り回すのが−−お好きなようですから、韓国政府の立場もよく理解されることと思います。

河野談話以降に発見された資料を wam が公開

2007年に第一次安倍内閣辻元清美議員の質問主意書に対して閣議決定した答弁書の「軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような資料は発見されていない」という主張が孕んでいる欺瞞については当ブログでもたびたび指摘してきました。今回 wam が公開した文書群は、日本政府の不誠実さの物証とでもいうべきものです。日本政府は河野談話で行った約束を裏切り続けてきたのであり、「日本は誠実に取り組んできたのに韓国の頑なな姿勢のせいでいつまでも解決しない」などという主張はインチキもいいところである……ということがよくわかります。

人権問題を外交問題としてしか考えられない人々

法華狼さんがすでに言及されている件です。
ヴェトナム戦争時の韓国軍「慰安所」についての記事を『週刊文春』に書いた TBS の元ワシントン支局長は取材のきっかけが「ある外交関係者」からの耳打ちであり、「韓国に加害者の側面があることが分かれば、慰安婦問題の突破口になるはずだとの考えに共感」して調査をしたことを認めているとのことです。つまり日本軍「慰安婦」被害者のことも韓国軍「慰安婦」被害者のことも第一義的な関心の対象ではなかったわけです。「韓国に加害者の側面があることが分かれば、慰安婦問題の突破口になる」と考えることができるのは、その「慰安婦問題の突破口」を韓国政府のトーンダウンに求めるつもりだからです。韓国政府が被害者の要求を超える強硬な姿勢を示しているというならともかく、実際にはこれは被害者の要求をはねつけることを意味するわけです。ダシにされたヴェトナム人被害者はどう思うでしょうね。

教科書に虚偽の記述を加えさせる教科書検定

2016年度から使用される中学校の教科書に対する文科省の検定結果が昨日発表されました。
検定基準に「政府見解がある場合はそれに基づいた記述」などが加えられたことで注目されていた検定ですが、文科省は政府見解とは異なる記述を加えさせているようです。

 今回、初めて教科書をつくった「学び舎(しゃ)」の歴史では、旧日本軍の元慰安婦の記述が対象になった。同じページには旧日本軍の関与を認めた「河野談話」も書かれていたが、07年に閣議決定された「軍による強制連行を直接示す資料は見当たらない」など別の見解があるとして、追加を求めた。いったん不合格となり、出し直した教科書では、この見解が追加された。中学校教科書に「慰安婦」の記述が載るのは10年ぶり。河野談話の記述は小中高を通じて初めてだという。
(http://digital.asahi.com/articles/ASH426456H42UTIL035.html?iref=comkiji_txt_end_s_kjid_ASH426456H42UTIL035)

このブログでは何度か指摘していることですが、第一次安倍内閣は「軍による強制連行を直接示す資料は見当たらない」などという閣議決定を行っていません。正しくは「同日の調査結果の発表までに政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかったところである」というのが「政府見解」です(「同日」は河野談話が発表された93年8月4日を指す)。「同日の調査結果の発表までに」と「政府が」という2つの限定を省略してしまったのでは「政府見解」を歪めることになります。
さらに、河野談話とともに発表された政府文書「いわゆる従軍慰安婦問題の調査結果について」には、政府が発見した文書の一つとして「〔法務省関係〕(バタビア臨時軍法会議の記録)」があり、そこに含まれる「ジャワ島セラマン所在の慰安所関係事件」に見られる記述について、2013年に共産党赤嶺政賢議員が「これらの記述は、「軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述」にあたらないのか」などと問いただす質問主意書を提出しています。これに対する答弁書閣議決定されたもの)の回答は、07年の「閣議決定」された答弁書次の部分の通りだとされています。

 お尋ねは、「強制性」の定義に関連するものであるが、慰安婦問題については、政府において、平成三年十二月から平成五年八月まで関係資料の調査及び関係者からの聞き取りを行い、これらを全体として判断した結果、同月四日の内閣官房長官談話(以下「官房長官談話」という。)のとおりとなったものである。また、同日の調査結果の発表までに政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかったところである。
 調査結果の詳細については、「いわゆる従軍慰安婦問題について」(平成五年八月四日内閣官房内閣外政審議室)において既に公表しているところであるが、調査に関する予算の執行に関する資料については、その保存期間が経過していることから保存されておらず、これについてお答えすることは困難である。

文科省は是非、「スマラン事件の記録は『軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述』を含む文書ではないのか?」という問いに対して「同日の調査結果の発表までに政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかったところである」と答えるのが「政府見解」である、ということも是非教科書に記述させてほしいものです。また、マスコミも文科省が「政府見解」とは異なる記述を文科省が追加させたことを、是非問題にしてほしいものです。


関連エントリ
http://d.hatena.ne.jp/Apeman/20131104/p1

自分の後頭部に飛来するであろうブーメランを歓迎している人々

戦時性暴力に対して普遍的な視点から考えている人間にとっては、新たな史料の発掘は歓迎すべきことです。しかし産経新聞やその支持者にとって、「慰安婦」問題の「本質」とは強制連行の有無だったはずです。しかし産経の記事を隅々まで読んでも「強制連行」の4文字は見当たりません。米軍による「日本人捕虜尋問報告 第49号」に "professional camp follower" というフレーズがあることをもって日本軍「慰安所」制度が性奴隷制度であることを否定する右派の論理によれば、韓国軍が設置した「慰安所」なるものは "welfare center" にすぎないということになってしまいますね。
秦郁彦センセーのコメントに対しては、「吉田清治的強制連行がなかったのなら日本軍『慰安婦』制度は無問題、と考える人間に韓国軍慰安所のことを言う資格はないという意見も出るだろう」とだけ述べておきます。

マグロウ=ヒル社に歴史教科書を改訂してもらうには……

日本政府が吉見義明先生にご出馬願って申し入れをして貰えばいいんじゃないだろうか? 札付きの歴史修正主義者たちの要請なんて一蹴されるだろうけど、アメリカの歴史学者もまさか吉見さんの言うことであれば無視はできないだろうし。