『日中戦争と汪兆銘』

汪兆銘政権の成立(および重慶を脱出した汪兆銘に対する日本の手のひら返し)については、日中戦争ないしアジア・太平洋戦争についての通史には必ず出てくるので通り一遍のことは知っているのだが、ほんとに通り一遍でしかないので昨年買っておいたものを、年末から年始にかけて読了。周仏海はじめ汪の側近たちの役割や、汪兆銘政権の内実がコンパクトにまとめられている(重慶政府との間での、漫画家の動員合戦といったトピックにもふれているのが面白い)。

後知恵で言えば「屈辱的」としか言いようのない条件を呑んだ汪兆銘たちだが、日本だってその7、80年前まではそれぞれ列強をバックにもった複数の勢力に別れて対立していたわけで、場合によっては汪兆銘のような決断をした日本人が現われたかもしれない…と考えれば他人事ではない。この点、後世の目を意識した節があるとされる周仏海の日記はその粉飾ないし脚色(の可能性)ゆえにいっそう興味深い。

古本屋で昨年買ったもののなかに、影佐機関(梅機関)の一員だった岡田酉次主計少将(敗戦時)の『日中戦争裏方記』(東洋経済新報社)がある。まさに中華民国維新政府から汪兆銘政権までに関与した日本側の関係者の回想記。松本重治が序文を書いている。『日中戦争汪兆銘』の記憶が新しいうちに読んでみようかな(ただ、アレルギーが心配になる埃のつもり方なのでついつい後回しに…)