NHK番組改編訴訟、最高裁判決

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イ 放送事業者が番組を制作し,これを放送する場合には,放送事業者は,自ら,あるいは,制作に協力を依頼した関係業者(以下「制作業者」という。)と共に,取材によって放送に使用される可能性のある素材を広く収集した上で,自らの判断により素材を取捨選択し,意見,論評等を付加するなどの編集作業を経て,番組としてこれを外部に公表することになるものと考えられるが,上記のとおり,放送事業者がどのように番組の編集をするかは,放送事業者の自律的判断にゆだねられており,番組の編集段階における検討により最終的な放送の内容が当初企画されたものとは異なるものになったり,企画された番組自体放送に至らない可能性があることも当然のことと認識されているものと考えられることからすれば,放送事業者又は制作業者から素材収集のための取材を受けた取材対象者が,取材担当者の言動等によって,当該取材で得られた素材が一定の内容,方法により放送に使用されるものと期待し,あるいは信頼したとしても,その期待や信頼は原則として法的保護の対象とはならないというべきである。
 もっとも,取材対象者は,取材担当者から取材の目的,趣旨等に関する説明を受けて,その自由な判断で取材に応ずるかどうかの意思決定をするものであるから,取材対象者が抱いた上記のような期待,信頼がどのような場合でもおよそ法的保護の対象とはなり得ないということもできない。すなわち,当該取材に応ずることにより必然的に取材対象者に格段の負担が生ずる場合において,取材担当者が,そのことを認識した上で,取材対象者に対し,取材で得た素材について,必ず一定の内容,方法により番組中で取り上げる旨説明し,その説明が客観的に見ても取材対象者に取材に応ずるという意思決定をさせる原因となるようなものであったときは,取材対象者が同人に対する取材で得られた素材が上記一定の内容,方法で当該番組において取り上げられるものと期待し,信頼したことが法律上保護される利益となり得るものというべきである。そして,そのような場合に,結果として放送された番組の内容が取材担当者の説明と異なるものとなった場合には,当該番組の種類,性質やその後の事情の変化等の諸般の事情により,当該番組において上記素材が上記説明のとおりに取り上げられなかったこともやむを得ないといえるようなときは別として,取材対象者の上記期待,信頼を不当に損なうものとして,放送事業者や制作業者に不法行為責任が認められる余地があるものというべきである。

高裁判決と比較すると「取材対象者が抱いた上記のような期待,信頼」が「法的保護の対象」となるためのハードルをさらに上げた(高裁判決でも「特段の事情」が要求されていた)ということだが、最終的には個別の事情に即して不法行為の存否が判断される、という点は変わらない。VAWW-NET側にしてみれば、問題の本質は政治的圧力によりNHKが自ら「表現の自由」を放棄した点にあるのにそこに触れないのは不当、ということになるのだろうが、訴訟の枠組みからいってそこを直接争点にしうるかどうかはやはり難しいと言わざるを得ないのだろう。
ただ、沖縄戦に関する歴史教科書検定問題や映画『靖国』をめぐる騒動にも通じることだが、政権党は言外に匂わすだけでも実質的に政治的圧力をかけることができる、という非対称性は歴然としている。幸いにして“安倍政権になったら「官邸のチェック」で歴史教科書を変える”などと本音を漏らしてしまうお調子者がいるからまだ助かっているわけだが…。