西本願寺と戦争責任

11月18日「朝日新聞」夕刊(大阪)、「西本願寺 戦争責任にけじめ」

 全国約1万寺、門信徒約700万人。伝統仏教の最大教団、浄土真宗本願寺派(本山・西本願寺京都市下京区)が動いている。9月には、宗派の最高法規「宗制」を改正。戦争協力を促した前門主の「消息(文書)」を公式に失効させ、戦争責任に明確なけじめをつけた。宗門改革は進むのか。
 同派の最高議決機関「宗会」が9月に大多数の賛成で改正した宗制は、宗門存立の根本となる教義や理念を規定した、いわば憲法。1946年の規定以来、改正は初めてだ。消息は門主が自らの考えを述べた文書で、これまでは宗祖・親鸞の教えや聖教と同等の効力があると宗制に定められていた。しかし、消息の中には、第2次世界大戦中に故大谷光照・前門主が発した「一死君国に殉ぜんは義勇の極み」など戦争協力を促すものもあった。改正によって親鸞、事実上の教壇創始者の3代覚如、中興の祖である8代蓮如の3人を除く門主の消息は失効する。
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現在の門主大谷光真氏は前門主の子。記事中には「父である前門主の戦争責任を自覚し、2011年の親鸞聖人の750回大遠忌後に予想される門主継承の前に、自らの代できちんと清算したいとの強い決意がある、と宗門内ではみられている」ともあり、同じような意思を感じるある「息子」と、全く逆の意思を感じさせるある「孫」とをそれぞれ連想した。


遅いと言えば遅すぎるのだが、教団自らの発意による改革である点は評価されるべきであろう。教団にはぜひ門信徒にも呼びかけていただきたい。従軍経験のある門信徒はもう残り少なくなっているだろうが、遺族が保管している資料には現代史の穴を埋める、あるいはあいまいな部分を明らかにするものが含まれていないとも限らない。戦闘詳報だって、戦後個人が隠し持っていたものが出て来たりしているのである。教団としてそうした資料の発掘、公表に努力すれば「清算」がことばだけではない、実質的なものになるだろう。