「貧者の兵器とロボット兵器」

10月15日の朝日新聞(大阪本社)朝刊、「時時刻刻」で、10年目を迎えた*1アメリカのアフガニスタン戦争における「新戦略」がレポートされている。ナンガハル州を担当する軍民混合の「地域復興チーム」の作戦会議でのこと。

 この席で、上官がくどいほど兵士たちに念を押したのが「相手が敵だと百%確信できなければ、撃つな」という規則だった。
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 敵と確信しても、殺害せずに拘束できるよう、まず手足を狙って撃つルールになった。交戦状態でも、空からの武力支援を仰ぐには、市民の巻き添えが出ない状況だと認められなければならない。

この方針が徹底されれば市民の犠牲が減ることは期待できるが、他方で米軍兵士には負担がかかることになる。

 ただ、現場の兵士の反応は複雑だ。ある下士官は、「われわれ軍人にとっては、相手の頭や心臓を狙って撃たないこと自体、経験したことがない『異文化』だ」と語った。


米軍兵士の戦士が増え厭戦的な世論が高まることを恐れる米軍が活用しているのがロボット兵器であるわけだが、この前の日曜日に「NHKスペシャル」がアフガニスタン戦争におけるロボット兵器の運用と、それに対抗するタリバンの戦術をとりあげていた。

9.11同時多発テロから9年、米軍とタリバンの泥沼の戦闘が続くアフガニスタン。ここに歴史上初めての全く新しい戦争の姿が出現している。ハイテク無人機など“ロボット兵器”を駆使する大国正規軍と、カラシニコフ銃や手製爆弾など旧式の“貧者の兵器”に頼る武装集団が、互いの姿の見えない戦場で対峙する究極の“非対称戦争”だ。
知られざるその実像をとらえた膨大な映像記録をNHKは入手した。そこにたびたび登場するのがタリバン最強硬派の「ハッカーニネットワーク」だ。自爆軍団として米軍に恐れられ、無人機攻撃の最大の標的にもなっている。
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今、米国はハッカーニらのゲリラ戦から自国兵士を守るため、ロボット兵器を次々と開発し、米本土から遠隔操作で攻撃を行う。だが誤爆も相次ぎ、犠牲者周辺からタリバン予備軍を生み出す憎しみの連鎖も呼んでいる。“貧者の兵器”対“ロボット兵器”。その実態を描き、21世紀の新たな戦争の姿とその脅威に迫る。

いまさらいうまでもなくこの国は65年前に圧倒的な装備の米軍を「本土」で迎え撃つにあたって鎌や鉈まで引っ張りださねばならないような戦争をやったわけで、観ていて全く他人事とは思えなかった。語られることの少なくない航空特攻よりも、「特攻」と名付けられることもなく米軍やソ連軍の戦車に爆薬を背負って突っ込まされた兵士のことが思い浮かぶ。だから自爆攻撃の“志願者”をあの手この手でリクルートする手法にも怒りを禁じ得ない一方で、自軍兵士の命を大切にするがゆえに無人機を多数投入し、安全なところからローテク装備の敵を攻撃するような戦争の仕方がいったいどのような道徳的退廃を生み出すだろうか? とも考えさせられる。

*1:旧ソ連アフガニスタンで戦ったのが79年から89年までだから、ほぼ同様の期間に及んでいるわけだ。