「強姦防止対策」論をめぐって

すでにはてブツイッターでいろんな方が言及されていた記事です。

旧日本軍が「慰安所」制度を創設した主観的動機の一つとして「将兵による強姦の防止」があることを以て(同時に、その他の動機を無視ないし軽視することによって)多少なりとも旧軍を免罪しようとする議論があります。しかし、実際に効果があったのかどうかを実証的に明らかにするために必要なデータなど存在していませんし、せいぜい旧軍関係者の回想や「性欲を満たす場があれば強姦なんてしないに違いない」という思い込み*1によってしか「効果はあった」という主張はできません。
他方、「慰安所」制度に対する旧日本軍の責任を追及する立場からすれば、「慰安所」に軍が期待したような効果があったかどうかは基本的にどうでもいいことです。こちらの女性の犠牲によってあちらの女性の被害が回避できた……というのが仮に事実だったところで、そんなことを目論んだ旧軍を肯定的に評価する理由はなに一つないからです。
この点をしっかり確認しておくことがなによりも重要ですが、そのうえであれば「効果はなかった」「むしろ逆効果だった」という可能性を検討することには一定の意味はあります。特に後者の場合、「慰安所」以外での性暴力についても「慰安所」制度との関連を疑うことができるからです。
もちろん、実証的なデータによって裏付けることができないのは「強姦を減らす効果はあった」という主張と同様です。このような状況でなお科学的になにがしかの意味があることが言えるとすれば、それは「人間の行動に関する既存のモデル、別途有効性が確認されているモデルに基づいて予測した場合に、どちらの蓋然性が高そうか」といったことではないでしょうか。

 半年後、分遣隊として数十キロ離れた上社鎮という占領地区に移り、慰安所は強姦の歯止めになるどころか性的欲求をあおり、拍車を掛けていることを知る。


 「慰安所は大隊本部にしかなかった。だから兵隊たちは『討伐』と称し、村々で食料を奪うのと同時に女性たちを強姦していった」


 犯す前、松本さんは避妊具を手渡した。「気を付けろよ」。病気になるなという念押しだった。

現役兵よりも予備役・後備役兵の素行がひどかったとされる点について、かつて「相対的剥奪」(「準拠集団」でもよいのですが)によって説明する可能性を示唆するエントリを書いたことがありますが、証言者の上記のような観察も―十分な数があるわけではないですが、類似の証言が他にもあります―「相対的剥奪」ないし「準拠集団」でよく説明できそうです。

*1:例えば「慰安婦とそのシステムが南京に存在したとすれば、間接的にではあるが、大量の強姦事件などは否定できるのである。まあ、強姦やり放題だったとすれば、慰安婦など必要無い筈だからである」という水島聡など。