永井先生の論文をちゃっかり「お役に立て」ていた読売新聞
掲示板で一読者さんから荻上チキ氏のツイートをご教示いただきました。
読売新聞編集局(著)の『徹底検証 朝日「慰安婦」報道」(中公新書ラクレ)は買っただけで未読だったのでさっそく参照してみました。問題の箇所は62ページ以降、「善意の関与」という小見出しがつけられた箇所です。同書はまず「永井教授の論文の要旨は次のような内容だ」として、こちらで明らかにされている永井先生の「返信」から修正分の「【論文の主旨の要約】」をそのままコピーしています。読売新聞編集局による要約ではなく取材に対する著者自身の返信内での要約であることを明記していないのは不誠実ですが、これに続く不誠実さに比べれば序の口。ついで本書は【「慰安婦」と強制連行との関連】の(1)、(2)から(1)のみを引用します(数字は原文では丸囲み数字)。
現存する1937年末から1938年初にかけての警察報告をみるかぎり、和歌山での婦女誘拐容疑事件(これは大阪の警察が慰安婦の「公募」証明を出したことによって容疑者は釈放された)を除き、警察は「強制連行」や「強制徴募」の事例を一件もつかんでいなかったと言わざるをえない。だとすれば、「副官通牒」から「強制連行」や「強制徴集」の事実があったと断定ないし推測する解釈は成り立たないことになるし、また、これをもって「強制連行を業者がすることを禁じた文書」とする主張も誤りと言わざるをえない。
以上が『徹底検証……』で引用されている部分。
秦郁彦氏の研究でも就労詐欺や誘拐によって女性が集められた事例が多いことが明かになっている。「軍慰安所で性的労働に従事する女性を、その本人の意志に反して、就労詐欺や誘拐、脅迫、拉致・略取などの方法を用いて集めること、およびそのようにして集めた女性を、本人の意志に反して、軍慰安所で性的労働に従事させること」をもって「慰安婦の強制連行」と定義してよいのであれば、軍から依頼された業者が詐欺や誘拐によって女性を軍慰安所に連れてきて働かせ、しかも軍慰安所の管理者である軍がそれを摘発せずに、事情を知ってなおそのまま働かせたような場合には、日本軍が強制連行を行なったといわれても、それはしかたがないであろう。
そしてこちらが引用されなかった部分。なぜ読売新聞編集局は後者を引用しなかったか? それは、前者を引用したあとに次のように続けるためです。
いずれにしても、朝日が特集記事で紹介した二人の識者の解釈は共に、日本軍が民間の慰安婦募集業者を統制下に入れようと試みた、とするもので、日本軍による強制連行への関与を裏づける内容ではなかったことになる。
あたかも西岡力・永井和両氏が同じ結論に達したかのように見せかけるためには、「……日本軍が強制連行を行なったといわれても、それはしかたがないであろう」という結論が不都合だったというわけです。
これって、「捏造」だと思うんですけど?