テレビ局による先行研究・調査の“横領”疑惑
山口放送が制作し、NNNドキュメント'16で放送された「奥底の悲しみ〜〜戦後70年、引揚げ者の記憶〜」について、山本めゆ・日本学術振興会特別研究員が次のような告発を行っています。
日本学術振興会特別研究員の山本めゆと申します。山口放送制作「奥底の悲しみ」において私の論文の知見があたかもこの作品のオリジナルな発見であるかのように表現されたことから、今後のクレジット表示等を求めて山口放送とディレクターの佐々木聰氏に対し申入れを行いました。
(http://okusokomondai.blogspot.jp/2017/11/2013coegcoepdf-httpci.html)
実は今年の8月に放送された NHK ETV特集の「告白〜満蒙開拓団の女たち〜」についても、ノンフィクション・ライターの平井美帆氏が同じような告発をウェブサイトで行っていました。もっとも黒川開拓団については社会理論・動態研究所研究員の猪股祐介氏が2005年から聞き取り調査を行っており(猪股祐介「ホモソーシャルな戦争の記憶を越えてーー「満洲移民女性」に対する戦時性暴力を事例としてーー」、『軍事史学』2015年9月号など)、ETV特集のクレジットでは猪俣氏と先の山本氏の名前が「取材協力」として表記されており、山口放送のケースと同列に扱ってよいかどうか即断はできません。しかし平井氏によればテレビ局は「平井さんの記事を読んで」と取材のきっかけを語っていたとのことです。研究者以外はめったに読まない媒体より『女性自身』に掲載された記事のほうがきっかけになった、というのはそれなりに蓋然性のあるはなしでしょう。
いずれも戦時性暴力に関わる番組で、かつ女性による先行研究・調査が軽んじられたということになると、これはちょっと気になるところです。テレビ局側の誠実な対応を求めたいですね。