本物のアホなのか安っぽいインチキ野郎なのか、判断に迷うケース

主要エントリリストを記した記事のコメント欄に興味深いコメントをカーツウェルさんから頂戴したのですが、議論には不向きな場所だったのでこちらに転載させていただいたうえでお答えしたいと思います。

従軍慰安婦の待遇のうち、外出の自由について、以下のように言われたんです。こちらで探しても外出の自由を制限するのは見つかるがそうでないのが見つからずです。
何か心当たりがあれば助力をお願いしたいのですが、対応は可能でしょうか。

先方は従軍慰安婦資料集成を根拠に
しているそうです。

常州、マニラ、イロイロには外出を許可制とする規程があるがマステバ、遠山隊、中山隊、石兵団、スチュアード等過半数の部隊には外出を制限する規定はないので「慰安婦に外出の自由がない」は間違い、もしくは印象操作

 元のツイートはこちらですね。

https://twitter.com/MituzoJ/status/1171989571661225985

そもそもそんな事実があれば秦郁彦が持ち出さないはずがないのであって、調べるまでもなく胡散臭いですよね。さらにすべての軍「慰安所」について営業規定が見つかっているわけではない以上、「過半数の部隊」というのはまったく無意味な主張です。

とはいえそれで片付ければ向こうが勝利宣言するに決まってます。文書名にきちんと言及されていないので100%確実とは言えないかもしれませんが、『政府調査 「従軍慰安婦」関係資料集成』に収録されたものだとすれば、このネトウヨが言っているのはおそらく以下の資料です。いずれも第3巻に収められているものです。

「マステバ」=「軍人倶楽部規定[マスバテ島警備隊長]」(第3巻60番)

「遠山隊」=「外出及軍人倶楽部ニ関スル規定[直兵団遠山隊]」(3巻82番)

「中山隊」=「軍人倶楽部利用規定[中山警備隊]」(第3巻89番)

「石兵団」=「石兵団会報」(3巻91番)

「スチュアード」=「海軍慰安所利用内規[第12特別根拠地隊司令部]」(3巻106番)

最後のものなどは「利用内規」という文書名だけからもわかることですが、これらはいずれも日本軍将兵に対して、「慰安所」の利用方法を示した文書です(「石兵団会報」にはそれ以外の内容も含まれる)。「外出及軍人倶楽部ニ関スル規定」の「外出」というのも日本軍将兵の外出を指しています。だからこれらの文書はそもそも軍「慰安婦」に適用されるものではなく、「慰安婦」の外出を制限する条項が含まれていないのはあたりまえです。

当該文書さえ探し当ててしまえば「石兵団会報」以外は大した量の文書でもないですからすぐバレる話で、インチキにしてはずいぶんと安易です。かといってざっと見るだけでも日本軍将兵を対象とする規定であることがわかる文書を誤読するというのも底抜けのマヌケさですし……