「継承」と引き換えに出てくるもの

新年早々「同盟国」から釘を刺される首相……。
もとよりアジア・太平洋戦争の評価を大幅に見直すような「談話」などアメリカが許すはずもなく、安倍イデオロギーが露骨に反映した新談話が出る可能性は特に考えておく必要もないでしょう。もちろん、その可能性を封じているのは何よりもアメリカからの外圧であって、内的な歯止めでないことは肝に銘じておく必要がありますが。
他方で、アメリカが許す範囲での反動的な動きについては私たち自身が阻止しなければならない、ということでもあります。年末の『朝日新聞』が露骨な「アジア女性基金」再評価路線を見せていたことは、そうした動きの釣行の一つとして理解しておくべきです。

遊就館で「歴史学習」

今年5月、ミッドウェーの洋上慰霊祭で「祖国の繁栄を念じつつ奮闘された姿は、今なお我々の心に深い感銘を与えて止みません」とあいさつしていた海上自衛隊練習艦隊司令官はなかなか勉強熱心な方のようです。

防衛省の話 海上自衛隊練習艦隊司令官と(初級)幹部らは今年5月、主に幕末、明治維新以来の戦史に関する収蔵物、展示資料の観覧を通じた歴史学習を目的に、(靖国神社内にある展示施設の)「遊就館」で研修を実施した。この際、休憩時間を含む自由時間を利用して各人の自由意思で参拝した。初穂料(玉串料)は私費で支払われたと承知している。
(http://www.47news.jp/47topics/e/256092.php)

ミッドウェーに行く前、だったんですかね?

山本五十六教の恐怖

すいません、タイトルは一つ前のエントリにあわせたかっただけです。ただ、まるで無根拠かというとそういうわけでもありません。
昨晩放送された NHK BS1 の「山本五十六の真実」。海上自衛隊によるミッドウェー洋上慰霊祭の様子(今年5月)が紹介されているのだが、その際の練習艦隊司令官の挨拶に曰く、「祖国の繁栄を念じつつ奮闘された姿は、今なお我々の心に深い感銘を与えて止みません」。「顕彰」の意図を隠そうともしてませんでした。当時の日本人が追求したのは、中国をはじめとするアジア諸国の犠牲の上に建った「繁栄」だったわけですが。
このように旧軍との連続性を公言してはばからないのは陸自も同じだったりしますが、海自の場合「海軍善玉史観」が強調した「良識派」の海軍軍人の存在によってよりいっそうスルーされてきた感がなきにしもあらず。エントリタイトルがまるで無根拠というわけでもない、という理由です。

書いた、と思ったらこんなシロモノだった

2日遅れの7月9日に朝日が盧溝橋事件に言及した社説を書いたのはいいんですが、その内容がすこぶるよろしくない。「国家間に横たわる歴史は、どちらか一方が独占できるものではない」だの「歴史にこだわるならば、検証に値する当時の経緯を、日中の共有資産とするよう目指せないものだろうか」だのと大風呂敷を拡げる暇があったら、産経や読売との「共有資産」を作り上げる努力をしたらどうですか? 「慰安婦」問題については保守・右派メディアからさんざん「元凶」呼ばわりされながら逃げの姿勢に徹し、「百人斬り」についても訴訟を起こされるまでは「我関せず」を貫いてきた朝日新聞。その不作為が「日中の共有資産」形成を阻害しているという自覚はないんでしょうか?

毎年のこととはいえ……

Google のニュース検索で「盧溝橋」を含むニュースを検索してみましたが、見事に中国での記念式典を伝える(さらには中国の「対日圧力」を伝える)記事ばかりで、日本側の視点から主体的にこの日の意味を考えるようなものは皆無でした。今年の9月18日もおそらく同じようなものでしょう。

河野談話の作成過程を検証するんじゃなかったの?

河野談話を撤回できない腹いせに、その「作成過程」にケチをつけようというプロジェクトの報告書が先週末に出たわけですが、タイトルが「慰安婦問題を巡る日韓間のやりとりの経緯〜河野談話作成からアジア女性基金まで〜」となっております。あれあれ? アジア女性基金? 河野談話の作成過程と関係ないじゃん。しかもこれ、アジア女性基金の事業の評価に関わるようなことまで、一方的に日本政府(と基金)の視点から記述してある。「問題が解決しなかったのは韓国の支援団体のせい」というメッセージを国内向けに伝えるという狙いであることは明白です。
また報告書タイトルの「日韓間のやりとりの経緯」も「慰安婦」問題をひたすら日韓間の問題として矮小化してきた日本政府の(そして日本の右派の)パースペクティヴを忠実になぞっているわけですが、その結果として、河野談話の作成過程で日本政府がサボったこと――代表的なのが、フィリピンやインドネシアでの調査をやらなかったことですが――については、完全になかったことにされてしまっています。韓国で行われた調査にしても、「日本側においては当初、元慰安婦からの聞き取り調査を始めると収拾がつかず、慎重であるべきとの意見もあった」(7ページ)などとされています。当時の日本政府の調査がとことん「公文書中心主義」に染まっていたことをうかがわせる一節です。

歴史修正主義を公然と支持する『朝日新聞』特別編集委員

Dr-Seton さんもすでにエントリを書かれている『朝日新聞』6月8日のコラム、「記憶遺産、負のせめぎあい」についてです。やはりあきれ果てるのは次の一節でしょう。

 このうち私が注目しているのは特攻遺書だ。無謀な敵艦突入を美化する申請なら賛成しかねるが、戦争の大波にのみ込まれ、海上に散ることを余儀なくされた若者たちの遺書である。国外で読み継がれるにふさわしいと思う。


 申請にあたった南九州市の桑代睦雄係長(53)によると、神風特攻隊は海外では自爆テロの先例と目されがち。申請書ではあえて「神風」の語を使わず、「大死一番」「七生轟沈(しちしょうごうちん)」といった決死の遺筆も外した。

特攻を「美化」しないというのであれば、同調圧力や国家による洗脳の証しとなる「大死一番」「七生轟沈」云々の遺書をこそとりあげるべきであり、こうした「不都合な真実」を消し去った「記憶遺産」申請などまさに「記憶の暗殺者」の所行と評さざるを得ません。これを「地元知覧の細やかな配慮」などと理解できるというのは、頭の先までどっぷり歴史修正主義に浸かっているからでしょう。
それにしても「いまの中国には、自国の「正」の遺産に光を当てることよりも、敗戦国日本の「負」の遺産を世界に知らしめることの方が優先するのだろうか」などと書いていた山中編集委員は、ユネスコ国内委員会が選んだ登録候補の1つがシベリア抑留という旧ソ連の「負」の遺産(「舞鶴への生還―1945〜1956シベリア抑留等日本人の本国への引き揚げの記録―」)であることをどう思うんですかね。シベリア抑留が日本人にとって「遺産」であるというのなら、南京大虐殺だって中国人の「遺産」でしょうに。