北博昭『日中開戦―軍法務局文書から見た挙国一致体制への道』、中公新書

旧陸軍が「空襲軍律」を制定した経緯について紹介しておられるbat99さんのエントリで言及されている、『軍律法廷―戦時下の知られざる「裁判」』(朝日選書)の著者、北博昭氏の日中戦争論。副題が示すように、『支那事変海軍司法法規』という海軍法務部の内部資料に依りつつ、「法」という観点から日中戦争(の初期段階)を分析する。周知のように日中双方が当初宣戦布告を回避した(日本の対米開戦を期に法的にも戦争状態に移行)ためさまざまな問題が生じた。上海戦の時点ではいわゆる拡大派も全面戦争を考えていたわけではなく、「一撃を加えれば蒋介石は折れてくる」と考えていたわけである。そのため、首都攻略の備えのない部隊を南京に送ってしまい、それが南京事件の一つの要因になっているわけである。本書によれば、海軍は陸軍とは異なり捉えた中国軍将兵を「俘虜」として扱う方針で臨んだ、とのこと。また、南京等の都市への空爆に関する海軍の見解もなかなか興味深い。