なに一つ「事実」を提示せずに「事実について語れ」と主張するひと

関東軍」といえば記憶に新しいのが、自民党中川秀直幹事長が自身の公式サイトで「日銀が「平成の関東軍」などといわれることのないことを期待する」と題する一文を発表したというはなしで、まあそれくらい「関東軍=独りよがりな暴走で国家に重大な危機を招いた組織の代名詞」という認識は、保守派の人々にも相当程度定着しているということだろう。もちろん、なんでもかんでも関東軍におっかぶせてしまうというのは実は「東京裁判史観」であって、日中戦争が全面化するプロセスにおける海軍やマスコミの役割、なんてのも本当は問題にしなくちゃならない。だからといって関東軍の言うことを鵜呑みにしてどうするよ? と。しかも軍務局長だった武藤章の証言を無視して(笑)。


「米田淳一公式ページ」の「頭の中の鶏を個人で飼っている人もいるようです。 」と題するエントリ。簡単に片付けてしまおうと思ったら、これに尽きる。

第一当時の中国は国民党と共産党が争う内戦状態の上に匪賊馬賊がいたまさに無法状態であり、それを捕まえて捕虜にするだけでも寛大な措置なのに、よりによって民間人扱いしろとこの方はおっしゃっている。どうかしている。

だから、「民間人扱い」したと証言しているのは軍務局長だった武藤章なんだってば。あんた、私のエントリちゃんと読んだの?
まあ他にもツッコミどころはいっぱい。このひとは「第二次国共合作」なんてのも知らないのだろう。「匪賊馬賊」というのはあくまで日本側の主観にとってのはなしなのにそれを鵜呑みにしちゃってるのもアレだけど、まあそれはこの際目をつむるとして、「相手は賊なんだから、本来国際法としては極刑が当たり前なのだといっているのがなぜ分からない」などと言われても「そりゃわかりません」としか言いようがありませんわな。国際法に「匪賊馬賊」なんて規定があるの? 日本軍の占領下にある地帯で日本軍が制定した軍律に違反した中国人を軍律裁判にかけ、これを処罰することはもし日中戦争が法的に戦争なのだとすればなるほど国際法違反ではない。しかしその場合でも自動的に「極刑が当たり前」なんてことにはならないし(軍律が規定する罰でなければならない)、だいたい1943年の時点においても中国軍との戦闘に関して戦時国際法を適用しようとしなかったのは日本なんだから。日本軍占領地域での「匪賊馬賊」だというなら軍律裁判にかける必要がある。ところがそういうはなしじゃないでしょ? 事実上の捕虜を、公式には捕虜として扱わず、しかし事実上の捕虜であるかのごとく使役するために表向き国際法にのっとった規定をつくり、しかしその規定通りに処理したかというと極めて疑わしい、ってはなしですよ。


このひとのすごいところは、自分の主張を裏付けるためになにが必要かをまったく理解していないところ。

で、関東軍の捕虜政策が研究に値する事項だと語っている。
 馬鹿も休み休み言って欲しいものだ。
我々が知りたいことは事実であって、法的に云々という憲法9条馬鹿みたいなお題目の話をしているのではない。その当時どうであったかが唯一の関心で、正当な歴史認識をなんて言い出したのは第一に中共の言いがかりではないか。

「馬鹿も休み休み言って欲しい」というのはまさにこっちの科白だ。「事実」が知りたかったら関東軍(日本軍)の捕虜政策を調べるしかないじゃん! 朝日の報道に反論したければ日本軍の捕虜政策を調べて、「中国大陸でもきちんと戦時国際法にのっとった処遇をしてました」と主張する以外にないだろうが。一体このひとはどんな「事実」が知りたいんだろう。さっぱりわからん。この場合問題になるのは、「関東軍特種工人取扱規程」が定めるとおりに賃金が処理されたのかどうかで、「関東軍の捕虜政策」を調べる以外にどうやってその事実を明らかにする術があるわけ? しかも「関東軍特種工人取扱規程」という一種の「法」が問題になっているときに「法的に云々という(…)お題目」なんかどうでもいい、と言ってしまうセンスが凄い。このひとの頭のなかでは「戦争=北斗の拳的世界」なんだろうか。


これもすごいですよ。

まったく、だいたい600ページの歴史書になるほどの争点と言うが、そうしている自身でまったくの政治マター、政治的な作文ではないか。そんなものに正当な歴史の評価などあるわけがない。

ページ数だけで決めつけ! だとしたら774ページある西尾幹二の『国民の歴史』はどうなるんだろう(笑)。ネトウヨ歴史観がいかに薄っぺらかがよくわかる。

なぜそんなに自分の祖父たちが非道で人でなしだといいたいのか。

来た来た! って感じですな。同じ日の別のエントリに「もちろん、こうした事例は日本人が「本性として」「他民族以上に」残虐であることを意味するわけではない」って書いてあるのに。まあ別のトピックだから読んでなくても文句は言わないけど、じゃあ私のこのエントリのどこに「自分の祖父たちが非道で人でなし」だと書いてあるわけ? 私は主として中国大陸における日本軍の捕虜政策の自己矛盾を解説しただけなんだけど。

それと、当時もまともな大人であれば第1次世界大戦時の青島で捕まえたドイツ人捕虜への日本の扱いを覚えていたはずだ。

だったらどうしました? 「歴史的連続性」ってのはまさか「第一次大戦について当てはまることはそのまま第二次大戦にも当てはまる」と勝手に前提すること、ではないですよね?