古森義久氏、中国・北朝鮮の放送メディアを賛美!

映画『靖国』の一般公開が危うくなったその日にこのようなエントリがアップされたのはなかなか興味深い符合です。


朝日新聞が「日本の国益」主張を叩く――NHK国際放送で「日本」を主張するな、とは


引用されている記事中の上智大学音好宏教授のコメント、「国営放送的なものに耳を傾ける人は少ない」とか「公正中立なニュース提供が報道への信頼と日本の民主主義の成熟を示すことになる」は至極もっともだと思うのだが、古森氏はお気に召さないようです。

メディアが外国へのメッセージで自国の主張や事情を伝えると、対外的に信頼を失うというのは、おかしな理屈です。北京放送が中国の主張を伝え、平壌放送北朝鮮の主張を伝えても、両国が独裁国家であっても、その放送がその国の主張を正確に表明しているという点では放送メディア自体への信頼が失われることはないでしょう。

笑ってしまいますね。新華社の報道がチベット問題についての「中国政府の主張」を「正確に表明」していることを疑う人間はほとんどいないでしょうが、ではチベット問題についての新華社の報道を信頼する人間がどれほどいるでしょうか? 反対に、現状でNHKが「日本政府の主張を正確に表明」していないと考える外国人がいるのでしょうか? そもそも「日本政府の主張」を誰が主張すべきかと言えば、日本政府に決まってるわけですよ。NHKがその主張を、日本政府の主張として「正確に」伝えるのは大いに結構ですよ。しかしそれをNHKの主張として伝え出したら、海外の視聴者は「日本政府の主張を知るための情報」としてしか扱ってくれなくなるでしょう。そうなったら、客観的にも妥当なこと報道している時にだって割り引いてしか受けとってもらえなくなりますよ。


次の一節もなかなか味わい深いものがあります。

朝日新聞社説は以下のようにも述べます。


「公共放送であるNHKは、国民から集める受信料で運営される。国家権力からの独立を保障し、さまざまな情報を多角的に伝えるための仕組みである。ここが政府の宣伝機関とは決定的に異なる」


さあ、上記の記述でも、おなじみ「政府や国家は国民とは対立状態にある権力なのだ」という前提があります。
実際には国家とは国民の集まりなのです。国民の意思で動きます。民主主義ではそうなのです。しかし朝日はそれを認めません。
朝日流に従うと、政府の発言はすべて「宣伝」であり、政府の発言を伝えれば、それは「宣伝機関」になる。
ところが現実には民主主義国家の政府の発言は対外的には通常は国民(集合体)の発言です。日本の放送局が日本の国民の主張を外国に伝えても、それは「宣伝」だから、いけないというのでしょうか。

このロジックで行けば「三権分立」なんかも無意味になっちゃいますよね。


古森氏の発想の背後には、「NHKが海外向け放送でじゃんじゃん日本政府の主張を流せば、それが国際社会で通るようになる」とでもいった甘々な発想(南京事件否定派の「情報戦」みたいな)があるのでしょう。いうまでもありませんが、「宣伝」のためにはいかに情報に客観性の装いをまとわせるかが肝心なのであって、「NHKで日本政府の主張をジャンジャン流せ」と公言し、それが実現したところで「情報戦」には勝てないと思うなぁ。
同様に、一部の右派が盛んに喧伝している“中国脅威論”もママゴトみたいなものだ、ということがよくわかるのが映画『靖国』の上映中止問題です。監督の李纓氏は誰に頼まれたわけでもないのに日本にやってきて、19年間も日本で生活し、日本で映画をつくってるわけですよ。一見すると迂遠なようでも、こういう在日中国人(あるいは逆の立場の在中日本人)が増えることは安全保障上も意味があるわけですよ。そうした人物の映画が上映中止に追い込まれるという事態が世界中に知られてしまう。そうなるといわゆる歴史認識問題で日本の肩を持とうという国だって出てきませんよ。