TBSクイズ番組の件

参考
会津戦争をお笑いのネタにするTBSは恥を知れ
TBS番組に会津若松激怒、鶴ヶ城開城「不衛生だから」?


真実はときに不快であって、誰かの感情を害するという理由で真実が枉げられてよいわけはない。また全体として悲惨な出来事であっても、個別の場面を見てゆけば滑稽としか言いようがない出来事が含まれていることは往々にしてあって、そうした事柄についての表現が優れた批評性をもつことがある(よくできたブラック・コメディーなど)。この2点を前提として考えたとしても、そうした覚悟や批評精神があってつくられた番組(設問)でないことは、まあ間違いないだろう。
いくつかの観点から語りうるこの問題だが、私としては「面白さ」を追及することが「単純化」を招き、学問的にみて妥当性のない「正解」を生みだしたのだ、という側面を強調しておきたい*1。つまりこの番組「が」ダメというより、テレビ一般がはらんでいる危険性という側面。事前の取材に際して予定された「正解」に抗議した会津若松市は「開城は、同盟諸藩の降伏で他藩の応援の望みが絶たれたことや、籠城(ろうじょう)による物資の枯渇など様々な要因が重なった」ためだと主張しているとのこと。衛生状態は軍の継戦能力に影響するから、平和で豊かな日本に生まれた人間が想像する以上に排泄物の処理の問題がシビアであった…というとりあげ方であれば、むしろ啓蒙的な効果を持ち得たかもしれない。近代戦でも、弾が飛んでくれば腐敗した死体や糞尿の堆積のなかに飛び込まなければならないこともあるわけで、それほど語られることのない、戦争の悲惨さの一面ではある。しかし「クイズ番組」というフォーマットは「同盟諸藩の降伏で他藩の応援の望みが絶たれたことや、籠城(ろうじょう)による物資の枯渇など様々な要因」を無視して「糞尿(ふんにょう)がたまり、その不衛生さから」を正解とすることを要求したわけだ。TBSに薩長閥が残ってるとか、「国民の歴史」にひびを入れてやろうとする謀略があった、なんてことは考えがたいわけで、「面白さ」を追及した結果がこれだったわけだ。番組サイト曰く。

 お堅いばかりが「歴史」じゃない!歴史好きじゃなくても笑えて、思わず驚く、珍エピソードが盛りだくさん!小学校でも、中学校でも、塾でも教えてくれない興味津々の「歴史雑学」!歴史と聞くと思わず、苦手だと言う人も、この番組を見たら明日から歴史好きに!!

というわけで、この一件は「歴史嫌いの克服」のために何をやってはならないか、についての教訓にもなっている。

*1:このブログで何度か書いてきたように、戊辰戦争が―沖縄戦ほどには注目されることがないが―「国民の歴史」が抱える大きな瑕である、という側面も無視できないが。もう一つ、「トリビア」的なものの重用という問題もありそうだが、今回はパス。