右派ジャーナリストにみる「逆転可能性感覚の欠如」

2007年夏にアメリカ下院が日本を糾弾する慰安婦決議を採択するまでの過程ではマイク・ホンダ議員の影で「世界抗日戦争史実維護連合会」という組織が決定的な役割を演じました。在米の中国系反日団体です。

あえて「反日」と書くのは、この組織が対日講和条約など国際的な合意を無視して、ただただ日本の過去の罪状を非難し続け、その過去を現在の平和国家・日本と重複させているからです。

よくわからないのですが、対日講和条約には旧連合国の私的組織が「日本の過去の罪状を非難」することを禁じる条項でもあったというのでしょうか?
同じような奇怪な認識はエントリ中で引用されている産経新聞の記事にも見られます。

 同抗日連合会は1994年に在米中国系の活動家らによって結成され、戦争中の日本軍の残虐行為に対し戦後の日本はなお謝罪も賠償も十分にはしていないとして、それらを求めることを活動の最大目標としてきた。


 日本の戦時中の残虐行為などは戦後、一連の軍事裁判でいちはやく裁かれたほか51年のサンフランシスコ対日講和条約で賠償や謝罪も済んだとするのが日米両国政府の見解だが、同抗日連合会は日本政府がこれまで謝罪も賠償もしていないという立場をとり、日本を非難してきた。

サンフランシスコ講和条約って「謝罪」についてなにか規定していましたっけ? 賠償にしたって講和条約ではその枠組みについて規定しているだけで*1、最終的に決着がつくには個別の二国間協定(賠償放棄の決定を含む)が必要だったはずですが、この際おおまけにまけて細かいはなしはスルーすることにしましょう。「日本の戦時中の残虐行為などは戦後、一連の軍事裁判でいちはやく裁かれたほか51年のサンフランシスコ対日講和条約で賠償や謝罪も済んだとするのが日米両国政府の見解」であるからといって「日本政府がこれまで謝罪も賠償もしていない」という主張の正否が直ちに決まるわけではありません。そして「謝罪」はともかく「賠償」については、役務や在外財産による賠償を除けばアメリカや中国(中華民国であれ、中華人民共和国であれ)に対して「十分にはしていない」という主張は十分成立する余地のあるものです。
だいたい、「講和条約で決着済み」だから私的団体が賠償に関して何らかの主張をするのはおかしいというであれば、日本の私人や私的団体が講和条約第11条の決着を無視して「東京裁判は不当だ」とか「戦犯裁判はインチキ裁判だ」などと主張することもおかしいということになるはずです。私は私人が「東京裁判は勝者の裁きであって不当だ」と主張する自由は認めます(その主張の妥当性は認めませんが)ので、アメリカの私的団体が「日本はなお謝罪も賠償も十分にはしていない」と主張するのも自由だと考えます(その主張の妥当性はまた別の議論となります)。古森義久氏はどうお考えなのでしょうか。アメリカの私人・私的団体の主張は講和条約に拘束されるべきだが、日本の私人・私的団体の主張はそうではない、とか超虫のいいことを考えているのでしょうか。


なお古森氏はこの団体を常に「抗日連合会」と略記するわけですが、正式名称(の和訳中国語表記)は「世界抗日戦争史実維護連合会」です(古森氏によれば)。「抗日」は「戦争」にかかるのであって「連合会」にかかるのではありません。

*1:第14条(b)は「この条約に別段の定がある場合を除」いて連合国が「すべての賠償請求権、戦争の遂行中に日本国及びその国民がとった行動から生じた連合国及びその国民の他の請求権並びに占領の直接軍事費に関する連合国の請求権を放棄」することを定めているのであって、講和条約締結=請求権放棄で決着、ではありません。