クビにした側の歴史認識

ホドロフスキさんのご教示によると、麻生首相は昨日(11月1日)の夕方、書店にお出かけだったそうで。

首相書店へ行く、経済書4冊ご購入…漫画売り場立ち寄らず


 麻生首相は1日夕、東京・八重洲の書店に立ち寄った。
(…)
 金融危機への対応に追われているためか、買い込んだのは長谷川慶太郎氏の「2009 大局を読む」や日下公人高山正之両氏の「日本はどれほどいい国か」など4冊で、日ごろ愛読しているという漫画本コーナーには足を運ばなかった。
(http://news.goo.ne.jp/article/yomiuri/politics/20081101-567-OYT1T00598.html)

まず大前提として、著書を買ったからといってその著者の主張に賛同している(部分的にであれ、全面的にであれ)とは限らない、というのはもちろんその通りです。また長谷川慶太郎については守備範囲外なので、「金融危機への対応」を構想する際に参照すべき評論家なのかどうかについてはどなたかがコメントしてくださることを期待して脇におきます。さて、名前が挙がっている残り二人ですが……
http://www.nankinnoshinjitsu.com/sandou.html
↑映画『南京の真実』の賛同者一覧。「日下公人」の名がありますな。
http://megalodon.jp/?url=http%3A%2F%2Fwww.sankei.co.jp%2Fseiji%2Fseisaku%2F070713%2Fssk070713003.htm&date=20070713202138
↑07年7月13日付けの Sankei Webの魚拓。「慰安婦問題の歴史的真実を求める会」が米大使館に抗議書を手渡したのにあわせて開かれた記者会見に「日本財団特別顧問の日下公人氏」が出席しています。更迭された元空幕長とは意見があいそうです。
http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/p/
↑ネット上で日下氏の文章をまとまった量読むことができるのはここですが、例えば「第51回 思想戦で海外に負けない教育と教科書を」。

 1940年前後の数年間、日本人は戦争をしたが、極めて冷静だった。英米人も人間だ。偉い人は偉い。くだらない人はくだらない。中国人もそうだ。当時の教科書を見てみると、この共通認識があったと考えられる。


 ところが米国はどうだったか。ガダルカナルサイパン島硫黄島へ向かって出陣する兵士たちに見せた映画が残っている。


 日本人は「リトル・イエロー・モンキー」だ。小さな黄色いサルだ。しかも心は野望に満ちていて、世界中を侵略しようと思っている。タコのように足を伸ばして、太平洋中に手を広げていく。そんな映画だ。そこには知性がない。

右派が「荒唐無稽」だと言い続けている「百人斬り」やそれに類する報道がまかり通った社会が「極めて冷静」であるというのはおよそ信じ難いはなしですが、日本の「当時の教科書」についての分析には立ち入らないまでも教科書と(米軍の)兵士向けプロパガンダを比較するというアンフェアぶり。プロパガンダ同士、教科書同士で比較しなさいな。
他方、高山正之氏についてもコラムをまとめて収録しているサイトが複数あるのですが、こちらはどうも公式なものではないようなのでとりあげるのは避けておきます。まあこのサイトに「高山正之コーナー」がある、ということでおおよそ想像がつくわけです。元空幕長が私見を公表したそのしかたについてはともかく、その内容についてどの程度麻生首相が「不適切」と考えているのかどうか……。


さて、マスコミ報道ではもっぱら「先の戦争の侵略性を否定」「政府見解を否定」といったところに焦点があわされているようです。しかしぶっちゃけていうと、自衛隊幹部のなかに「大東亜戦争」を正当化、合理化しようとする志向性の持ち主がいるであろうことは当然予想されることで、また自由な社会では(職務の遂行にあたって自分の思想信条を切り離すことができるのであれば−−そして元空幕長はそれを切り離せなかった、ということになるわけですが)許容せざるを得ないことです。他方、「大東亜戦争」を正当化するにしてもそのやり方というのがまた別に問題にしうるわけで、根拠薄弱な陰謀論に飛びつく人間が武装組織のトップに近いところにいた、というのは「自衛隊幹部の歴史認識」とか「文民統制」とかとはまた別の意味で由々しき問題と言わざるを得ません。財務次官が「金融危機ユダヤ資本の陰謀」と信じてたり、厚生労働省幹部が「エイズは細菌兵器」と信じてたりするようなもんですから。いいかげん、陰謀論疑似科学に甘い顔を見せるのはやめなければ。