大塚英志が求めているのは……
『リアルのゆくえ』(210頁) で大塚英志は東浩紀にこう問いかけています。
南京虐殺があると思っているんだったら、知識人であるはずの東がなぜそこをスルーするわけ?知識人としてのあなたは、そのことに対するきちんとしたテキストの解釈や、事実の配列をし得る地位や教養やバックボーンを持っているんじゃないの?
これをもって、大塚が東に歴史学者並みのコミットメントを要求している、などというのは誤読もいいところでしょう。上のエントリに引きつけて大塚の要求を私なりにパラフレーズするなら、こうなります。まともな歴史記述とインチキなそれとでは裏づけとなる資料的根拠の質も厚みもまったくちがうのであって、たとえ分野は違っても「テクストを読む」ための高度な技術を備えた(と自負する)人間がそれなりの時間と手間をかければ、両者の区別については語ることができる。少なくともインチキ度が顕著なものについては「これはインチキ」と言えるはずだ、と。
こういう時、わかりやすい例を提供してくれるのが櫻井よしこさんです。はい、「田母神論文の内容は、これまでも内外の専門家が広く指摘してきたこと」だと主張する際に、真っ先にかつただ一つあげた根拠が「ジョン・マクマリーのメモランダム」だ、という薄っぺらさ。また、秦さん曰く「泡みたいな話」な「張作霖爆殺=スターリンの謀略」説の薄っぺらさだって、英語が読めて若干の支出を厭わなければ簡単に確認できます。なんせ、調べるべきことが少ないんで(笑) どっちも、「生情報/一次情報への直接アクセス」なんてこと言わなくたって出来ることですよ。