非常識の極限にチャレンジする否定論者

まずはこの↓コメントをご覧ください。
http://d.hatena.ne.jp/Apeman/20100327/p2#c1269705638


読者の方々には改めて解説する必要もないことですが、要するに一つの出来事を記述する方法はいろいろあり、異なる論者が同じ出来事を異なる仕方で記述したからといって、矛盾やそれに近い齟齬でもないかぎりそこにはなんの謎もない(逆にまったく一緒だったら著作権法上の問題が出てきてしまう)、という常識を軽々と超越してしまったわけです。さすがに「マジで言ってんの?」と聞いてみたのですが、マジなようです。
まああれですよ、バカなんですよね。で、自分の頭の悪さに気がついてない。これ以上はだか踊りを続けることを容認すると倫理的な問題が生じそうなので、サンプル収集はこれにて終了いたします。


そうそう、案の定冨澤繁信がネタ元でしたね。
で、今後はコメントを削除することにしますので、勝手な勝利宣言などさせないために一応釘を刺しておきます。「一応」というのはもちろん、糠に釘だからですが。まずはこれ。
http://d.hatena.ne.jp/Apeman/20100327/p2#c1269727435
例によって問題のないところに無理矢理問題をでっち上げようとしているだけですね。一個人の日記に(しかも多忙を極めている期間に書かれた日記に)なにもかも詳しく書いてあるはずがない、というだけのことです。
いくつか事例をピックアップしておきましょう。「いくら私が「ありますか?」とお尋ねしても「答えられなかった」件です」なんて言ってますが、資料をいくら示したところで意味がないことは明白でしたからね。
12月1617日付、金陵大学緊急委員会委員長(ベイツのこと)名義で日本大使館に送られた書簡に次のようにあります(『南京事件資料集 アメリカ関係資料編』、138頁)。

ほかに二つの事件に言及しておきます。昨日、本学の一アメリカ人教員が一将校および兵士らにより、事実無根の理由で−−将校は自ら調べもせずに−−殴打されました。さらに同夜、別の一アメリカ人と私自身が銃をもった酔った一兵士によってベッドから引きずり出されました。

欧米人3人に対する暴行、殴打に限定しても1件報告されているわけですね。ベイツ以外は名前がない? 引用箇所の直前で書簡は「私たちは個人的なことを強調しようというものではありませんが」としています。書簡の目的は大使館を通して日本軍が軍紀を回復するよう働きかけることであって、欧米人の被害を訴えることではありません。
(ただし原文*1は次のようになっています。"Yesterday one American menber of our staff was struck by an officer upon entirely false charges (...)." すなわち、「大学教員」と訳されているのは"member of our staff" です。
次に17日のヴォートリンの日記。「その兵士は私の頬を平手で打ち、李さんの頬をしたたかに殴ってから、ドアを開けるよう強く要求した」とあります*2。ちなみにこの時、数人の日本兵がヴォートリンの注意を引きつけている間に別の兵士たちが建物に侵入し、12人の女性を拉致しています。次に22日のラーベの日記。「今日の午後、酔っぱらった日本兵に中国人が銃剣で首を突かれた。それを知って助けにいったクレーガーとハッツの二人も襲われた」とあります*3 。そう、マッカラムが29日の日記を書くまでに「リッグスさん以外にも殴られた人がいる」わけですね。
つぎにこれ。
http://d.hatena.ne.jp/Apeman/20100327/p2#c1269728012
これまた勝手に謎をつくりあげる安っぽいインチキです。

リッグス殴打事件が29日で、手紙が25日で提出が26日。この不思議な日付の意味って理解できますか?

別に「不思議」はありません。この文書で報告されている殴打事件は「29日」ではなく25日に起こったものだ、というだけのことです(笑)

第一四九件 十二月二十五日午前十時、国際委員会のリッグズ氏は漢口路で日本軍巡察隊の将校に誰何されたが、その将校はリッグズをつかまえて殴打したり、平手打ちをくわせたりした。
(『南京大残虐事件資料集 第2巻 英文資料編』、111頁)

原文は以下の通りです。

149. December 25, 10 am., Mr. Riggs of our Committee was stopped on Hankow Road by an officer of the Inspection Corps who grabbed, hit, and slapped Mr. Riggs.
(Documents of the Rape of Nanking, edited by Timothy Brook, The University of Michigan Press, p.55)

またしても間違ったネタ元を鵜呑みにしたのか、「五」と「九」の区別がつかないのか、それともバレまいと思って捏造したのか知りませんが、無の上に「不思議」を建てているだけですね。25日に書かれた手紙を付属文書とする文書が26日に提出されたことになんの「不思議」もないことは言うまでもありません。この「手紙」、すなわちリッグズ殴打事件の詳細を伝える「手紙」は元資料のファイルからは欠落してしまっているので『南京大残虐事件資料集 第2巻』では別のソースから訳出している、ということです。

*1:Eyewitnesses to Massacre, edited by Zhang Kaiyouan, M.E.Sharpe, p7.

*2:"He then slapped me on the face and slapped Mr. Lei severely, and insisting on opening of door." Eyewitnesses to Massacre, p.359.

*3:》Heute nachmittag wurden Kroeger und Hatz, die einem Chinesen zu Hilfe eilten, der von einem betrunkenen japanischen Soldaten mit dem Bajonett am Hals verwundet wurde, selbst angegriffen.《 John Rabe: der gute Deutsche von Nanking, DVA, s.135.