「女性・戦争・人権」学会第12回大会(追記あり)

「女性・戦争・人権」学会の第12回大会が今日、同志社大学室町キャンパスで行なわれました。非会員の参加も可能とのことでしたので、午後のシンポジウム「「女性国際戦犯法廷」10年を迎えて――ハーグ判決実現に向けた課題と展望――」に出かけてきました。パネリストは林博史氏、渡辺奈美氏*1、松本克美氏*2、の3名(発表順)。シンポジウムの様子は活字化されて学会誌に掲載されるとのことなので、ここでは私の印象に強く残った点についてのみ、簡単に。
松本氏の発表ではこれまで約130件近い判決がでている戦後補償裁判についてとりあげられていましたが、そのすべてで原告敗訴が確定している*3反面、裁判所が原告の請求を斥ける根拠を時系列に沿ってみてゆくと、そこには“請求を斥ける根拠が少しずつ掘り崩されてゆく”という意味での前進があったと言えるようです。原告敗訴であることには変わりありませんし、今後原告勝訴の判決がでるという安易な期待もできませんが、被害者たちの裁判闘争にも一定の価値があったことを感じることができました。
林氏の発表からは、改めて“いまだ調査を待っている膨大な資料があり、ほとんどの日本人がまったく知らない戦争犯罪がまだまだある”ということを知らされました。例えば10年間の期限付きでもよいから、旧日本軍関係の資料の整理・デジタル化・翻訳、いまだ生存している関係者への聞き取りなどに予算がつけば、多少なりとも事態は変わるのでしょうが。


追記
新聞広告で保阪正康氏の『昭和史の深層 15の争点から読み解く』(平凡社新書)が先月刊行されているのを知り、本屋に寄ってみた。あれだけ旧日本軍について著作を出していながら「慰安婦」問題についてはほとんど言及していない*4氏の「15の争点」に「慰安婦」問題が含まれているかどうかが気になったからだ。
http://www.heibonsha.co.jp/catalogue/exec/viewer.cgi?page=browse&code=85_525
目次を見ればわかるように第十四章が「慰安婦問題に見る「戦場と性」」と題されている。ざっと斜め読みしただけなのでフェアとは言えないが、他のトピックと比べて歯切れの悪さが目立つように思う(歯切れが良ければ良い議論、というわけではないのはもちろんだが)。右派にありがちな「商行為」論、「狭義/広義の強制」論などに与しない一方で左派の言説にも批判的なのだが、具体的な論者の具体的な主張をとりあげての議論でないために*5、氏の問題意識を明確につかむことができないのだ。自らの課題としてなにに高い優先順位を付与するかは他人がどうこう口を出すことでもないとはいえ、ちょっと残念なことである。

*1:アクティブ・ミュージアム「女たちの戦争と平和資料館」、事務局長。

*2:民法学者、立命館大学法科大学院

*3:いまだ係争中の裁判もありますが、ここでは確定したものについてのみ。

*4:例えば文庫の上下巻ともに600ページを越える大著『昭和陸軍の研究』(朝日文庫)でも、最終章で少し扱われているだけ。「私は、現在の慰安婦論争に直接かかわることはない」(下巻、600ページ)と態度表明している。

*5:それが「私は、現在の慰安婦論争に直接かかわることはない」ということなのだろうが。