最近は言及するにしてもブクマですませてしまうことが多い池田信夫センセイですが、10月1日、10月2日、10月4日と立て続けに素晴らしすぎるエントリを連発しておられまして、これはさすがにとりあげざるを得ません。
1日の「放射能という迷信」というエントリでは「学問的には疑問もあるが」と逃げを打ちつつも山本・事実であろうがなかろうが・七平の「日本人論」をとりあげています。曰く、「最近の反原発ヒステリーを分析するには適している」のだそうです。
しかしアド・ホックにしか使えないような理論はダメな理論なのであって、それがたまたま特定の事例にはうまく当てはまるように見えるからといって、その理論による説明が学問的に正しいことにはなったりしません。同じ大きさ・形の鉄球と発泡スチロール球を高いところから同時に落としてみる*1とき、二つの球のふるまいを分析するにはアリストテレスの自然学が適している、とか考えませんよね、誰も？
さて、翌2日の「日本人とユダヤ人」というエントリでは、エントリタイトルが示す通り山本・事実であろうがなかろうが・七平の『日本人とユダヤ人』を、今回もまた「そのキリスト教理解には怪しい部分もあるようだが」という逃げを打ちつつ読者に紹介しているわけですが、その紹介する理由が素晴らしすぎます。「2人の社会学者がそれを論じた『ふしぎなキリスト教』は、日本人のキリスト教理解のレベルの低さをよく示している」「こういうでたらめな本が売れるのもよくない」から、なんだそうです。キリスト教に関してデタラメを書いた本が――私は『ふしぎなキリスト教』を読んでませんからこの評価の当否については触れませんが――売れるのがよくないからというのであれば、キリスト教に関して正しい理解を読者にもたらすような書籍を紹介する……というのが常人の発想だろうと思います。しかし池田センセイが紹介するのはよりにもよって「そのキリスト教理解には怪しい部分もあるよう」な本なのです！
「学問的には疑問もあるが」とか「そのキリスト教理解には怪しい部分もあるようだが」とか言い訳をするくらいなら、社会心理学者なり宗教学者なりの書いた真っ当な本を参照すればいいと思うんですが、というか仮にも研究者の看板を揚げている人間であればそれ以外の選択肢なんてあり得ないと思うんですが、なぜそうしないのか？ 要するに、自分が言いたいことを言ううえで山本・事実であろうがなかろうが・七平だと都合が良いから、という理由しか思い当たりません。しかしアド・ホックにしか通用しないような理屈を援用して語られることが、これまたアド・ホックにしか通用しないことは言うまでもないでしょう。って、言っちゃったけど。
続く4日が「「慰安婦」の政治利用を許すな」です。なんだか「当時、男性の強制連行を取り上げた私の番組は話題にもならなかった」ことをずいぶんと根に持っておられるようですが、ご心配なく！ あなたの大嫌いなサヨク連中は中国や朝鮮半島から強制連行され、炭坑等で過酷な労働を強いられた男性被害者（および同様な境遇の連合軍捕虜）についても関心をもち続けていますから。
このエントリが特に印象深かったのは、たまたまこれを読む前にこんなツイートを読んだからでした。
@ghostgen
田村マサーシ
少なくとも自分にはピンと来ませんね、韓国で軍隊が村に現れて娘をさらって行った的なイメージが流布されてしまった現状では尚更、しかし狭義の強制連行の例を知っている人がいるらしい@deadletterjp 「慰安所での強制じゃ分かりにくい」ってどういう意味？誰にとって何が「分かりにくい
10月4日 webから
(https://twitter.com/#!/ghostgen/status/121236554688638976)
これと池田センセイのエントリを読んで私は次のようなツイートをしました。
@apesnotmonkeys
apesnotmonkeys
「韓国で軍隊が村に現れて娘をさらって行った的なイメージ」が流布しているというのが仮に本当だとして、それに一番貢献しているのは歴史修正主義者たちだと思うね。
10月5日 webから
実際、この10年、15年くらいについて言うならば、“従軍慰安婦の強制連行”云々を聞かされるのは圧倒的に右派からです。右派があまりにもしつこく「強制連行ガー、強制連行ガー」と言い募るから、しかたなく「いや（狭義の）強制連行のケースもあるにはあるんだけど、問題の焦点はそこ（だけ）にあるわけじゃなくて……」と言い続けねばならない、というのが現状です。世の中には「うさんくさい連中があれだけ強制連行はなかった、なかった、と言い張っているところを見ると、やっぱ強制連行はあったんだろう」と思う真っ当なひねくれた人もいるかもしれませんけど、その責任は右派にとってもらうしかないですよね。
なんにせよ、「慰安婦」問題を利用して差別意識や排外主義を助長したり、性暴力の問題を矮小化しようとするような政治的策謀を許すわけにはいかないのであって、池田センセの4日付エントリのタイトルにだけは全面的に同意する次第です。
*1:もちろん地球上で、のはなしですよ。
