産經新聞の「証拠」観

今回見つかったというのは、元大本営参謀の堀栄三が小野寺信・元ストックホルム駐在武官の妻に宛てて、いまから20年程前に送った手紙です。産経はこれを「小野寺氏の証言を裏付ける有力な証拠」と評しています(強調引用者)。しかし記事中にもあるように、堀栄三は同様の主張を手紙の前年に刊行された著書、『大本営参謀の情報戦記』で書いています(文春文庫版では263ページ)。つまり今回産経がとりあげている書簡は、公刊された著書で堀栄三が展開していた主張について、その主張の背景を解き明かす資料ではあっても、その主張を支持する独立した証拠ではありません。
もちろん、極めて簡潔な著書の記述の裏にあった堀栄三の認識が明らかになったことには意味があるでしょうし、私としては「情報が握りつぶされた」という主張に異を唱えるつもりもないのですが、これをもって「有力な証拠」とするのは科学的ではないじゃないの? と思わざるをえません。