『昭和天皇の戦争』

昭和天皇の政治や統帥への関与については、著者にはすでに『昭和天皇の軍事思想と戦略』(校倉書房)などの著書があり、著者自身断っているように内容的には過去の著作との重複も少なくない。昭和天皇の軍事指導に対する著者の評価は「統帥部のような強引なやり方は困るが、結果として領土・勢力圏が拡大することは容認する」(125ページ)といった具合に要約できるが、これも過去の著作から踏襲されたものである。
しかしながら、サブタイトルにもあるように、現存する資料と『昭和天皇実録』の記述を突き合わせることにより「残されたこと・消されたこと」を明らかにしようとするのが本書の狙いであって、この点については―十分予想されたことであるが―極めて明確な結論に到達している。すなわち、昭和天皇の「戦争・作戦への積極的な取り組みについては一次資料が存在し、それを「実録」編纂者が確認しているにもかかわらず、そのほとんどが消された」(270ページ)のである。