BS1スペシャル「隠された日本兵のトラウマ〜陸軍病院8002人の“病床日誌”〜」110分版(追記あり)

以前に地上波で放送されたものの拡大版のようです。放送後にこのエントリに感想など追記したいと思います。


追記:放送後僅かの間に3回も観直してしまいました。ご自身で「怒り」ということばを口にされた清水先生はもちろんのこと、番組全体から静かな怒りがじわじわと伝わってきた気がします。
厳密に尺を測ってみたわけではありませんが、地上波版と比べて増補されていたのは兵士の自殺とその研究、敗戦時に病床日誌が隠滅を逃れた顛末とその後、そして戦後の家族への影響、といったあたりでしょう。
とりわけ興味深かったのが“未復員兵”の父を持つ男性と、家庭で暴力をふるう復員兵を父に持つ女性の事例を通して語られる配偶者や子どもへの影響でした。間接的には孫世代にまで影響が及んでいる可能性も示唆されていたと思いますし、女性のケースはその記憶の仕方からしPTSDを疑うこともできるような紹介でした。
戦争神経症に関する戦後日本の沈黙がこの二人のようなケースの苦しみを一層大きくしたわけですが、番組にも登場した中村江里氏は著書『戦争とトラウマ 不可視化された日本兵の戦争神経症』(吉川弘文館)において、戦争神経症が「不可視化」された要因の一つに、軍医が診療・治療だけでなく恩給の策定にも関わっていたこと、を挙げています。「国府陸軍病院の軍医たちは、医学のみならず国家財政の観点から戦争神経症を解釈していたと言ってよいだろう。 」(308ページ) 番組でも多くの精神障害兵士が恩給の対象とならなかったことに触れられていましたが、軍という官僚組織の一員である軍医には、精神障害と軍務の因果関係を否認する動機があった、というわけです。