「特集ワイド 「NNNドキュメント」清水潔さんが検証 南京事件「否定論」なぜ」

NNNドキュメントの「南京事件2 歴史修正を検証せよ」が放送されたのをうけた毎日新聞の特集記事。ちょっと見過ごせない箇所があるのでコメントしておく。

 続編は、こんなシーンで始まっていた。旧日本軍が45年8月に証拠隠滅のため焼却しようとして、焼け残った書類の映像。防衛省防衛研究所が保管しているもので、南京事件の存在を記録した文書はないが、「南京ヲ攻略スヘシ」と書かれた命令書は残っている。

南京事件の存在を記録した文書はない」とはいったいどういう意味だろうか。こんにちわたしたちが「南京事件」と認識しているような一連の出来事の総体を「南京事件」として記録している文書、が公文書の中に存在しないのはあたりまえである。日本軍がそうした文書に結実するような調査を行わなかったからだ。「南京事件」は残された史料や証言から歴史学者が再構成した過去の出来事なのだから、リアルタイムの史料がそんなものを記録しているはずがない。しかしそれをいうなら「太平洋戦争の存在を記録した文書」だって存在しないと言えてしまうだろう。他方で敗戦時の隠滅を逃れた文書はそれなりに残っている。防衛省防衛研究所が管理しているものに限定しなければ、岡村寧次やジョン・ラーベなどがかなりの規模の虐殺の「存在を記録」した文書もある。「南京事件の存在を記録した文書はない」は非常にミスリーディングな表現であろう。

松尾一郎「『「南京事件」を調査せよ』絶版のすすめ」

  • 松尾一郎、「『「南京事件」を調査せよ』絶版のすすめ でたらめ「日テレ」ドキュメンタリー」、『歴史通』、2017年4月号

「松尾一郎」という人物をご存知でしょうか? 南京事件の“証拠写真”についての検証結果を東中野修道らにパクられた……と主張している人物で、最近もツイッター東中野藤岡信勝をディスりまくっています。
さて、今年第2弾が放送されたNNNドキュメント南京事件(山田支隊による虐殺)番組、その第1弾である「南京事件 兵士たちの遺言」(2015年)を「デタラメ」とする記事をこの松尾氏が『歴史通』に寄稿しています。まあ掲載誌が『歴史通』という時点でお察し……ですね。
従軍した兵士の日記を「三次資料以下」としているあたり、あれだけディスりまくっている東中野と同じ資料等級論に依拠しているようです。
松尾氏が得意とする(と自称する)写真についていうと、番組内に登場する“多数の人間が防寒着姿で倒れている”写真にケチをつけています。しかしそもそもこの写真は、番組内では取材のきっかけの一つとして、また今後の取材の可能性を暗示するものとして使われているにすぎず、山田支隊の虐殺については写真は一切根拠とされていません。例によって証拠にされていないものにケチをつける、という手法です。
あとはこれまたおなじみ「便衣兵」論やら第2弾で俎上にあげられた「自衛発砲」説の繰り返しで、新しい主張は皆無でした。
びっくりするのは、「この番組はインターネット上の動画配信サイト、ユーチューブにおいて視聴することが可能である」と、違法アップロードされた動画を紹介していることです。歴史修正主義者のモラルがよくわかります。

私人の犯罪に憤激する前に己の歴史修正主義を恥じたらどうだ?

酷い、酷すぎる!人として許せない。怖かっただろうに。痛かっただろうに。幼児は親無しには生きられない。一番頼りになる存在の親に殺されるなんて。小さい子供が犠牲になる事件のニュースは本当に辛くて耐えられない。
https://twitter.com/miosugita/status/1004298683721142272

クズ親!ほんと許せない!!


食事与えず放置、容疑で父母を逮捕 東京・目黒の女児虐待死 - 産経ニュース
https://twitter.com/MR_DIECOCK/status/1004295505571078144

いずれも引用にあたってニュースへのリンク部分を省略していますが、お察しの通り目黒区で起きた幼児虐待致死事件に対する反応です。
私がネットの歴史修正主義に注目するようになった理由の一つは、旧日本軍の戦争犯罪を否認するネット右翼の大半が、私人の刑事犯罪については厳罰主義的である、というのが解せなかったからなのですが、この2人もまさにその典型ですね。
いうまでもなくアジア・太平洋戦争ではこの事件に匹敵するような残虐行為が数え切れないほど行われてきたわけです。それを否認する「歴史戦」の旗を振っているこの2人に、両親を非難する資格なんてありません。


それとはちょっと話が違いますが。

オウム事件真相究明の会」の方々は、本当に歴史を知らない(と思いたい。知っているなら悪質な確信犯)。地下鉄サリン事件って約23年位前で、そこから延々と裁判をやっているのに、その経緯を無視して物を言われてもねえ。ホロコーストはなかったーとか無邪気に信じている人と同じレベル。
https://twitter.com/otakulawyer/status/1003946070781464576
これは6月5日のツイートですが、8日にも同じ内容のツイートをしています。上と同じく、引用にあたって他のツイートへのリンクを省略。
さて「オウム事件真相究明の会」が「地下鉄サリン事件はなかった」と主張しているという事実は管見の限りではありませんので、一体いかなる意味でホロコースト否定論と「同じレベル」なのか理解不能です。そもそもホロコースト否定論者が「無邪気」だというのも間違いですね。反ユダヤ主義抜きのホロコースト否定論なんて存在しませんから。
そもそもこのひと、「慰安婦」問題についてこんなツイートをしているわけで、歴史修正主義に対してはずいぶんと“理解”がありそうなんですけどね。

国から果てしなく被害者、加害者という関係でのマウンティングを続けられれば疑問と憤りを持つのは当然ですし、最終的かつ不可逆的な解決の合意を反故にされたことに対し、不信と怒りの声が上がるのも当然です。
https://twitter.com/otakulawyer/status/969465744848175104

刑務所、拘置所、入管など日本の強制収容施設における医療ネグレクトは極めて深刻な状態にあり、また「死」のみが刑罰であるはずの死刑囚に対する合理性を欠く接見制限も日本の刑事司法が抱える重大な問題の一つです。これらが地下鉄サリン事件の真相解明にとって障害となっている……というのは、少なくとも可能性としてはありうることではないでしょうか。

「ヒトラーは“ジャンキー”?」

ヒトラーの主治医モレルの日誌には、ナチス総統が薬物を常用し麻薬の依存症に陥っていく過程が記録されていた! ナチス・ドイツの“暴走”は、麻薬によって加速したのか?

ドイツで2016年に出版され、世界的な注目を集めた「第三帝国“薬中”の真実」。番組は、著者ノーマン・オーラーの調査を元に、ヒトラーが薬漬けになっていく過程とドイツの興亡を、新たな視点で描いていく。第二次世界大戦開戦の頃のメタンフェタミン。米国の参戦後、不眠症を訴えたヒトラーが手を出したオイコダル(オキシコドン)という鎮痛・麻薬作用がある“劇薬”・・・日誌には、ヘロインやモルヒネの文字も!
(http://www6.nhk.or.jp/wdoc/backnumber/detail/index.html?pid=180424)

本当に見たかったのは翌日、翌々日に前後編で放送された「ダス・ライヒ 〜ヒトラー “死の部隊”〜」の方で、いわばついでに録画したもの。
ヒトラーの薬物使用が彼の決定に与えた影響について懐疑的な歴史家の一人として登場するのがリチャード・エヴァンス。

そう、アーヴィング対リップシュタットの裁判で、被告リップシュタット側の証人になった歴史家だ。そうした見解に対するオーラーの反応がいかにも典型的。「自分の縄張り」を荒らされたくないからだろうと解釈したうえ、「重要な歴史を専門家だけに任せておいていいのでしょうか」と言っちゃう、という………。このセリフを口にする人間の主張はとりあえず眉に唾つけて聴いたほうがいい。
なお「ダス・ライヒ 〜ヒトラー “死の部隊”〜」2018年5月31日(木)午後5時から再放送。「ヒトラーは“ジャンキー”?」の再放送は2018年5月29日(火)午後5時からです。

NNNドキュメント'18「南京事件II」

シンプルすぎるタイトル予告から判断するに、前回と同様放送直前に実際のタイトルが公表されるのかもしれません。内容案内から判断すると、財務省などで露呈したずさんな(というより悪辣な)公文書管理を意識しているようにも思えます。
再放送予定は以下の通り。
5月20日(日)11:00〜 BS日テレ
5月20日(日)5:00〜/24:00〜 CS「日テレNEWS24

「ソンミですよ、ソンミ」

毎日新聞の連載「平和をたずねて」の4月24日(火)朝刊掲載分「反復された戦争(67) 報復焼き打ち 無法の連鎖」にて、以前に当ブログでとりあげたことのある『シベリア出征日記』が引用されています。私が紹介したのは1919年2月13日の日記でしたが、記事では3月3日、4日の日記が紹介されています。
また、作家高橋治の『派兵 第三部』(朝日新聞社、1976年)から、第12師団歩兵第14連隊の元兵士の証言を含む一節が引用されています。

 「ソンミですよ、ソンミ。南京大虐殺ほど大規模でなかったようだが、ま、ソンミそのものといえるでしょうな」

731部隊隊員の名簿公開

 ペストを投与した人体実験の疑いがある論文の検証を要請している「満州731部隊軍医将校の学位授与の検証を京大に求める会」(京都市中京区)が14日、京都大で記者会見し、国立公文書館から関東軍防疫給水部・731部隊「留守名簿」の開示を受けたと発表した。
(後略)

開示したことを評価すべきなのか、政府が進んで公開してこなかったことを指弾すべきなのか……。はっきりしているのは、この社会はアジア・太平洋戦争をきちんと振り返るために必要な、現存する資料すらきちんと公開できていなかった、ということですね。「いつまで昔の話をしてるんだ」どころか、いまだスタート地点にすらたどり着いていないわけです。
京都新聞731部隊をとりあげた連載についてはこちらを。またゆうさんの「南京事件 小さな資料集」改め「南京事件−日中戦争 小さな資料集」第四部には2016年から17年にかけて731部隊についての多数の考察がアップされています。遅ればせながらご紹介まで。