慰安婦問題を論じる池田信夫氏の資格を問う

すでに15日付けのエントリでご報告したように、池田信夫氏はまず(1)「慰安婦問題は東京裁判で裁かれたが、日本軍は無罪だった」と主張し、その後(2)「正確にいうと、慰安婦東京裁判で検察側の当初あげた55の訴因にも入っていません」と転進した。(1)と(2)の関係が「正確にいうと」でつなぐことができるようなものでないことも、すでに指摘しておいた。可能性としては次の二つ。

  1. 池田氏は(2)が(1)の「正確」な表現でないことを知っているが、自らの捏造をごまかしている。
  2. 池田氏は本気で(1)を「正確」に言い直すと(2)になると思っている。


1.の場合、池田氏朝日新聞の報道を責める資格があるのかどうかが問われるところだ。史実を捏造し、しかもその捏造に基づいて「「女性国際戦犯法廷」の主張を根底からくつがえすもの」と主張しておきながら、自分の主張こそ根底から覆っているのにそれを「正確にいうと」というフレーズでごまかし、女性国際法廷へのゆえなき非難も撤回していない。
なにしろ池田氏には、よりによってワシ。野良…じゃなかった潜水艦の言うことを鵜呑みにして「今ごろ社会主義を信じているなんて頭の悪い証拠」などと十条氏を誹謗し、いまに至るもそのことについて釈明・謝罪を行なっていないという前科があるので、この可能性は十分にある。
2.の場合、池田氏は「(起訴されて)無罪になること」と「起訴されないこと」の違いなど大したことはない、と考えていることになる。したがって、「国家意志として行なわれる戦争犯罪」に関して極めて限定された定義を主張し慰安所の運営等はその意味での国家犯罪ではない、と主張する資格があるのかどうかが問われることになる。自分の都合にあわせて定義の厳格さを自在に操るのは詭弁以外のなにものでもなかろう。


はなしは変わるが、池田氏の主張のうち昨日とりあげなかった部分について。

(…)
ここで重要なのは、この種の犯罪は日本軍のなかでも軍法会議で処罰されたということです。国家意志として行なわれる戦争犯罪と、「警備隊長の命令」は別です。林氏の持ち出した資料は、ありふれた強姦事件でしょう。それを「慰安婦の強制の証拠が見つかった」と記者発表するところなど、なかなか商売うまいですね。


(http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/d18221f1907d8c5e2b9e9094a6cb48a1)

軍法会議で処罰された」とは一体いかなる意味なのか? 性暴力が軍法会議で処罰された事例が少なくとも一つ存在するということか? だとすればそれは正しいが、ほとんど意味のない主張である。他方、日本軍が将兵による性暴力を黙認、場合によっては暗に推奨していたことを示す資料、あるいは取り締まりに極めて消極的であったことを示す資料ならば存在している。例えば、警察官が取り調べの際に性的暴行を加える悪しき慣習がはびこっていたとして、警察トップがその事実を認識しながら黙認したり、暗に推奨したり、そこまでゆかずとも「ごまかし切れない場合だけ止むを得ず処分する」ような態度をとっていたとして、「個々の警察官の犯罪であって警察の組織としての犯罪ではない」という言いわけが通用するだろうか? 警察トップが実態を認識していなかったとしても、認識していなかったこと自体の責任が当然問われるはずである。
17日には今回の資料についてもっと具体的なことが明らかになるはずで、池田氏はそれらの事例のすべて、ないしほとんどについて軍法会議で処罰が行なわれたことを立証する義務があるはずだ。そのときになって「敗戦後に文書が焼かれたので軍法会議の記録が見つからないだけだ」などと言いださないことを期待している。


追記:このエントリから池田氏のブログにトラックバックを送ったが、予想通り掲載されてません。