ドイツにおける「ナチ擁護」への反応
ナチ擁護 独首相が批判
“問題直視さけられない”
【ベルリン=中村美弥子】ドイツ南西部バーデン・ビュルテンベルク州のエッティンガー州首相(キリスト教民主同盟=CDU)が、第二次世界大戦中のヒトラー・ナチ政権下で海軍法務官を務めたフィルビンガー元同州首相を擁護する発言をしたことが、強い批判を招いています。メルケル首相は十三日、電話でエッティンガー州首相を厳しくたしなめました。
州首相発言 内外から辞任要求
エッティンガー氏は十一日にあったフィルビンガー氏の葬儀で、「フィルビンガー氏はナチ時代、人を死に至らしめるような判決を下したことはなかった」と述べ、ナチ支配下で従属を余儀なくされた被害者だと主張しました。
しかし、この発言はこれまでに明らかにされてきた歴史的事実と異なります。一九六六―七八年にバーデン・ビュルテンベルク州首相だったフィルビンガー氏は、ナチ政権下、海軍法務官として兵士二人に死刑を求刑しました。同氏はこの事実がメディアに暴露されたことをきっかけに、州首相の座から失脚しました。今月一日に九十三歳で死去したフィルビンガー氏が、自らの過去を悔い改めたことはありませんでした。
(後略)
この報道だけでは「人を死に至らしめるような判決を下したことはなかった」という記述の虚偽は明らかになっても、「ナチ支配下で従属を余儀なくされた被害者」という認識の誤りを示すには十分ではないかも知れない。フィルビンガー法務官が下した判決とはどのようなものなのか?
(…)海軍法務官だったフィルビンガーは、終戦直前に脱走し逮捕された若い水兵に対する軍法会議を担当した。そうこうするうちに終戦となったが、占領軍がくる前の空白期で軍事法廷はまだ開かれた。そして、当時有効であった海軍刑法にもとづいてこの水兵に死刑判決を下し、刑は即刻執行された。(…)
三島憲一、『戦後ドイツ』(岩波新書)、222ページより。NakanishiBさんのご教示による。横浜事件の裁判官と同様、ヒトラーが自殺しドイツ軍が降伏したあとになってもなお、この法務官は前体制にコミットすることを選んだわけである。ポール・ヴァーホーヴェンの新作『ブラックブック』にも同種のエピソードが登場するし(リンク先はネタバレがあるのでご注意を)、連合軍に降伏した日本軍の間でも軍法会議が行なわれ、オーストラリア軍から銃を借りて処刑した事例があることを田中利幸が紹介している。