ハイビジョン特集「BC級戦犯 獄窓からの声」ほか

旧大郷村の兵事資料がまとまって残されていた、というはなしは耳にしたことがあったのだが、その資料をもとにしたドキュメンタリー。旧大郷村兵事資料の値打ちは、明治時代から敗戦までの文書がまとまって残っているところにある。つまり、大郷村を通して日清・日露戦争から日中戦争、太平洋戦争までを通覧することができるわけである。戦争についてのドキュメンタリーは、「証言記録 兵士たちの戦争」シリーズがそうであるように、特定の戦場や戦争の特定の局面に焦点をあてることが多いが、ここでは同じ村からさまざまな戦場へと出征していった兵士たちの運命と銃後の想いが語られる。第9師団の兵士として出征した男性が存命していて登場した(「私は一般人を殺したことはないが」という断り付きだが、虐殺の存在自体は否定しなかった)他、刺突訓練をさせられた証言も登場した。しかしあくまで「村」に焦点をあてた番組なので、銃後の生活を回想する部分の方が印象深かった。例えば、イーストウッドの『硫黄島からの手紙』における憲兵の描写にクレームをつける意見が公開当時ちらほら見られたのだが、当時の一般庶民にとっては憲兵特高の区別なんてほとんど意味がないし、「厭戦的なことを言えば憲兵に引っ張られる」という意識を持っていたことがうかがえる。その一方で、戦争末期には村では悲観的な見通しがなかば公然と語られることもあった、という回想も興味深い。

 NHK−BSハイビジョンは13日21時から、ハイビジョン特集「BC級戦犯 獄窓からの声」を放送する。1950年代初頭、自らの釈放を疑問視するBC級戦犯グループがあった。ニューギニアで住民を虐殺し、20年の刑を受けた飯田進さんは自らの戦場体験を凝視。朝鮮半島出身のイ・ハンネさんやホン・ギソンさんらは、自身の罪を認めながらも、日本軍の責任を転嫁された不条理を訴えた。彼らの戦場体験を裁判記録と突き合わせながら描く。
(8月9日の毎日新聞「BSCSガイド」より)

これは大変に見応えがあった。いずれ再放送もあろうかと思われるので、機会があれば是非ご覧いただきたい。ちょっとすぐには「まとめ」る気になれない。
実はここに登場する飯田進氏は「証言記録 兵士たちの戦争」にも登場したことがある。「西部ニューギニア 死の転進〜千葉県・佐倉歩兵221連隊」の回だ。

彼は現地住民(非戦闘員)殺害の罪に問われ、オランダ(ニューギニアのうちオランダの植民地だった地域だった)による戦犯裁判にかけられ、有罪判決を受ける。彼が事情聴取のため司令部に連れ帰った非戦闘員を殺害するよう、上官(のち戦死)が命令したのであった。ナレーションでは彼が「戦後、ニューギニア独立運動を弾圧しているオランダに裁かれる」ことに対して釈然としない思いをもったことが説明される。「大東亜解放」の宣伝を素直に信じた、知的な青年だったのだろう。しかし彼はつづけてこうも言うのである。

(…)だがそれとは別に、じゃあ私が逮捕・連行した住民の処刑の責任は誰が負うのか? といった場合に、明らかに私は日本軍の一員ですから。しかも連行した、ね、直接の責任者ですから。その責めは負わざるを得ないですよ。そうでないと、殺害された住民は……その……誰も責任を問われなくていいのか、ということになっちゃうでしょう?

BC級戦犯裁判に対する(元被告によるものを含む)批判がどうしても裁判そのものへの恨みつらみにおおわれ、被害者の視点を無視していることが多いだけに、見ていてたいへん感銘を受けた。この元兵士がどのようにして戦後60年を過ごしてきたのか。赤の他人の人生に強い関心を喚起されるひとことであった。
(http://d.hatena.ne.jp/Apeman/20070818/p2 原文の注番号を省略。)

ここで「彼」としてあるのが飯田氏のことである(なお、上のエントリでは飯田氏を「元兵士」としているが、正確には海軍の民政府職員としてニューギニアに渡り、情報要員として陸軍に派遣されていたとのことである)。「「大東亜解放」の宣伝を素直に信じた、知的な青年だったのだろう」という私の予想は当たっていたようだ(後で紹介する著書では「いわゆる興亜青年のはしくれ」だったとされている)。自分が連行した女性や子どもが殺害されたとき、初めて「これがアジア解放のための戦争なのか?」という疑念が生まれた、と語っていた。
BC級戦犯の中に多くの朝鮮人・台湾人軍属が含まれていたことは比較的よく知られていると思うが、その生存者にスポットを当ててこれだけ詳しく紹介された例というのはあまりなかったのではないだろうか。飯田氏がいたニューギニアでは殺害された現地住民の孫を捜し出し、イ・ハンネ氏が韓国に渡って元BC級戦犯の生存者を尋ねあてるところを取材するなど、さすがにNHKである。
番組中で飯田氏がニューギニアの戦記を執筆したことが紹介されていた。

これがその著書。自身の体験と資料を組み合わせ、ニューギニアにおける日本軍の惨状が描かれている(自身の「戦争犯罪」と戦犯としての体験も記してあるくらいなので、現地住民が被った被害にもきちんと目配りされている)。行き帰りの電車の中で読んでいて感じたのは、ご本人の筆力によるのか編集者の努力かその両方だろうか、非常にわかりやすく、読みやすく書かれていること。例えば軍の編成について簡潔ながら解説がはさまれているところなど、若い読者の理解を助けるだろう。ニューギニア戦線にいた奥崎謙三にも簡単に触れているのだが、奥崎がカウラの捕虜収容所にいたというはなしは恥ずかしながら初めて知った。