あいまい語法

NakanishiBさんから存在を教えていただいた「イザ!」の呉智英によるコラム、「職業に「貴賤」あり」。本人は(例によって)気の効いたことを書いているつもりなんだろうけど、実に底が浅いうえに産経新聞的にはブーメランな内容となっている。

 職業には好まれる職業と嫌悪される職業がある。とすれば究極的には「職業に貴賤あり」を認めなければならない。この厳然たる事実から目をそむけて良識というイデオロギーが成立している(左右ともに同じ)。

「厳然たる事実」と言うが、ここで「厳然たる事実」と言いうるのは「職業には好まれる職業と嫌悪される職業がある」ということだけである(ひとの好き嫌いはさまざま、という点はおくとして)。なにが「とすれば」なのか? なにが「究極的」なのか? 「貴賤」が“世間”の評価に立脚するというのなら、その評価を変えようとする試みが(それが実現可能なことかどうか、といった点で議論はあるにせよ)別に「人権思想という欺瞞(ぎまん)」呼ばわりされる謂れはないし、職業には本来的に「貴賤」があるのだと言いたいのなら、世間の評価など持ち出す必要はないはずである。
このコラムの欺瞞がもっとも明らかになるのは3つ目の段落。

 慰安婦が、強制によるにしろ自由意思によるにしろ、救済・支援の対象になるのは、それが最下層の職業だからだ。軍医が、強制による(ないだろうが)にしろ自由意思によるにしろ、救済・支援の対象にならないのは、医者という憧(あこが)れの最上層の職業だからだ。

慰安婦が「救済・支援の対象になる」とは一体どういうことか? 「救済」とは「アジア女性基金」のことか? しかし国家補償はもとよりアジア女性基金ですら非難し、(左派による)元慰安婦への支援(訴訟支援など)を非難する言説の旗を振っているのが産経新聞ではないのか? 「商行為」というロジックでもって慰安婦は「最下層の職業」ではない(なにしろ陸軍大将なみの報酬を得ていたそうだから!)と言い張るのは「欺瞞」ではないのか? 軍医は「救済・支援の対象にならない」というが、元軍医には恩給があるのではないのか?