「コミンテルンの陰謀」説に「当時の価値観」で反論する
1937年の日中戦争勃発当時、外務省の東亜局長だった石射猪太郎の日記より。
8月19日
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○本日石原莞爾の河相情報部長に内話する処によれば、支那軍に徹底的打撃を与える事は到底不可能と、私の予見も其通り。日本は今やソビエットの思う壷に落ち込みつつある。(…)
8月29日
○とうとう蘇支不侵略条約だ。
支那をここまで追込んだのは日本だ。之で日支防共協定の理想もケシ飛んだのである。
イラザル兵を用いて、ヘマな国際関係をのみ生み出す日本よ、お前は往年の独乙になる。
(…)
9月2日
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○米国の一新聞の云わく、日本は何の為に戦争をして居るのか自分でも判らないであろうと。
其の通り、外字新聞を見ねば日本の姿がワカラヌ時代だ。
9月3日
○イギリスでは対日感情が悪くなって、商売にも差支えが出来て来たと正金*1に入電あり。
さもあるべし。英はまだ好い。
アメリカをおこらせたら事だ。自重して居る丈に怒らせたらイカン。注意すべきだ。
9月24日
○(…)
共産党の発言権は斯くして増大するであろう。支那共産化を憂うる日本、支那共産化に拍車を加えると外国新聞は評す。
(…)
百歩どころか五六億七千万歩くらい譲って「すべてはコミンテルンの陰謀」だったとしましょう。しかし日本の行動が客観的にはソ連と中国共産党を利していること、中国での戦争が英米との対立を引き起こすことは機密でもなんでもなく、海外ではふつうに報道され日本でも訳の分かった人間なら気がついていたことに過ぎません。